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「一時保護状」の完全骨抜きを狙う「バスケット条項」を許すな!

国連からの児相「一時保護」に関する勧告と、日本政府の後ろ向きな対応

児相被害者団体が2017年以来行ってきた、国際社会に児童相談所の人権侵害を訴え出る闘いが勝ち取った成果として、国連子どもの権利委員会が2019年3月、対日総括所見において下記の緊急勧告29(a)を発出したことは、既によく知られています(弊会訳):

⼦どもが家族から引き離されるべきか否かの決定に際して、義務的司法審査を導⼊し、⼦どもの引き離しについて明確な基準を設定し、そして⼦どもたちを親から引き離すのは、それを保護するため必要で⼦供の最善の利益にかなっているときに、⼦供とその親を聴聞したあと、最後の⼿段としてのみなされることを保障すること。

この国連勧告を受けて厚労省は、紆余曲折の末、児童福祉法33条1項の「一時保護」に際し、裁判所の「一時保護状」を導入することとし、次のような条項を児童福祉法33条に追加する改正(令和4年法律第66号)が2022年6月15日になされました:

[3] 児童相談所長又は都道府県知事は、前二項の規定による一時保護を行うときは、次に掲げる場合を除き、一時保護を開始した日から起算して七日以内に、第一項に規定する場合に該当し、かつ、一時保護の必要があると認められる資料を添えて、これらの者の所属する官公署の所在地を管轄する地方裁判所、家庭裁判所又は簡易裁判所の裁判官に次項に規定する一時保護状を請求しなければならない。この場合において、一時保護を開始する前にあらかじめ一時保護状を請求することを妨げない。
一 当該一時保護を行うことについて当該児童の親権を行う者又は未成年後見人の同意がある場合
二 当該児童に親権を行う者又は未成年後見人がない場合
三 当該一時保護をその開始した日から起算して七日以内に解除した場合
[4] 裁判官は、前項の規定による請求(以下この条において「一時保護状の請求」という。)のあつた児童について、第一項に規定する場合に該当すると認めるときは、一時保護状を発する。ただし、明らかに一時保護の必要がないと認めるときは、この限りでない。
(中略)
[7] 児童相談所長又は都道府県知事は、裁判官が一時保護状の請求を却下する裁判をしたときは、速やかに一時保護を解除しなければならない。ただし、一時保護を行わなければ児童の生命又は心身に重大な危害が生じると見込まれるときは、児童相談所長又は都道府県知事は、当該裁判があつた日の翌日から起算して三日以内に限り、第一項に規定する場合に該当し、かつ、一時保護の必要があると認められる資料及び一時保護を行わなければ児童の生命又は心身に重大な危害が生じると見込まれると認められる資料を添えて、簡易裁判所の裁判官がした裁判に対しては管轄地方裁判所に、その他の裁判官がした裁判に対してはその裁判官が所属する裁判所にその裁判の取消しを請求することができる。
(中略)
[9] 第七項本文の規定にかかわらず、児童相談所長又は都道府県知事は、同項ただし書の規定による請求をするときは、一時保護状の請求についての裁判が確定するまでの間、引き続き第一項又は第二項の規定による一時保護を行うことができる。
[10] 第七項ただし書の規定による請求を受けた裁判所は、当該請求がその規定に違反したとき、又は請求が理由のないときは、決定で請求を棄却しなければならない。
[11] 第七項ただし書の規定による請求を受けた裁判所は、当該請求が理由のあるときは、決定で原裁判を取り消し、自ら一時保護状を発しなければならない。

この児童福祉法33条改正条文を、国連子どもの権利委員会勧告と比較してみましょう。すると、そこには重大な齟齬があることにすぐ気づかれます。相違点を対照表にしてみました:

2019年国連子どもの権利委勧告  2022年改正児童福祉法
全件につき事前の義務的司法審査 親の不同意の場合のみ、7日以内の事後的審査
引き離しの明確な基準設定 児相長が必要と認めるとき=児相長の恣意
子供を保護するため必要でその最善の利益にかなっている場合のみ親子分離が許される 調査目的での親子分離も認める
判断にあたり、子供とそのを聴聞する 親の聴聞は要件とされていない
最後の手段としてのみ親子分離(補完性原則の貫徹) 代替的手段の検討(補完性)を裁判所に求めていない

このように、日本の「一時保護状」は国連子どもの委員会の勧告とは全く似て非なるものです。このことを、2022年10月に開かれた国連人権委員会において、日本の児相被害者団体が指摘しました(詳細は、本ウエブサイトにある別のNEWS記事をご覧ください)。すると国連人権委員会は、これを踏まえ、改めて、同年11月に次のような勧告を発出しました(45(b)項、弊会訳):

締約国[日本]は… 子供を家族から引き離す明確な基準を確立し、子供を保護するために必要であり、子供の保護と最善の利益のために必要な場合であって子供をその親から引き離すことが最後の手段としてなされていることが保障された正当性あるものかどうか判断するための、子供と親の意見を聴取する強制的な司法審査を全事案について導入する法改正を行なうべきである。

一読して明らかなように、この国連人権委員会の勧告に盛り込まれた「一時保護」要件は、2019年の子どもの権利委員会勧告と全く同一です。唯一違うのは、国連人権委員会が明示的に「法改正」、具体的には児童福祉法33条の全面再改正を求めたことです。そして、日本政府はその再改正手続きを取り進め、2025年11月4日までに、その進捗状況を国連人権委員会に報告しなければならないこととされました(勧告47項)。つまり、日本政府はお為ごかしな「一時保護状」導入の様な法改正しかしなかったので、国連はこれに憤り、国連からさらに厳しい勧告を突き付けられたのです。

「一時保護状」を完全骨抜きにしようとする児相弁の企み

ところが日本政府は、この国連の憤りを受け止めるどころか、さらにそれに後ろ足で砂をかけるような行動をとっています。
現在、この一時保護状発出の要件を更に具体的に内閣令で定めるための審議が厚労省、そして本年4月からはこども家庭庁「一時保護時の司法審査に関する実務者作業チーム」で進んでいます。ここに、本年2月22日、児相に配置された弁護士児相弁)が意見書を提出し、この一時保護状を骨抜きにしようと、「バスケット条項」なるものを強力に要求してきたのです:

現状の「内閣府令で定める場合」のイメージでは、現場で実施されている適切な一時保護のすべてをカバーすることは困難であると考えられるため、バスケット条項を設ける必要性が高い。
内閣府令のイメージの7号の文言を緩やかにし、例えば、「前各号に掲げるもののほか、一時保護を行わなければ当該児童の福祉を害するおそれがある場合」(又は「一時保護を行うことが児童の福祉に資する場合」)とすることが考えられる。
このような文言にすることで現状の1~6号に限定することなく、一時保護の典型的な類型にあたらない場合であっても、裁判所が一時保護の必要性を積極的に判断しうる余地を残すべきである。
イ 内閣府令のイメージの7号の文言は「児童の生命又は心身に重大な危害が生じるおそれのある場合」となっており、児童福祉法28条1項の施設入所等の措置を求める際の要件よりも、より児童に重度の危険が迫っている事案に限定されるような印象を与えかねず適切ではない。また、この7号の限定的な文言と相まって、1~6号の文言が想定よりも狭く解釈運用されるおそれがある。 (2) 『「内閣府令の各号該当性」=一時保護の必要性が推認される』という運用になるおそれがあること
一時保護が実施される現場において、内閣府令で定める類型該当性を 中心に検討されることとなれば、本来行われるケースアセスメントの後退や、一時保護の要否のアセスメントが誤解されることが懸念される。
運用前のマニュアルや指針等により、運用や解釈について誤解や混乱が生じないように、施行前から周知の徹底が必要である。

一時保護状発出の目的は、嫌々で気が進まないながらも国連勧告に一応目配りし、現行の恣意的で手あたり次第な児童相談所長による「一時保護」の要件を裁判所に「狭く解釈運用」させることを通じて、「一時保護」の濫用に歯止めをかけ、子どもの権利条約5条、18条などが規定する親の養育権、そして子供が実親に養育される権利を保障し、更にこれに引き続き、児相収容所内等での児相職員による小児猥褻、暴行や暴言、学校に通学させないなどの教育権・発達権侵害、実親との面会遮断等の著しい子どもたちへの人権侵害を蒙らないよう児童相談所長の手を縛る必要にありました。
ところが児相弁どもはこのことについての認識も反省も全くなく、国連人権関係委員会がなぜ繰り返し一時保護の厳格化を勧告しているのか全く顧みずに、いかに効率よく児相が子供たちを引き続き拉致拘禁できるようにするかだけ考え、児童相談所が現在確保している強権に裏付けられた社会的養護利権を失うまいとしてこの「バスケット条項」なるものを提案してきたのです。この児相弁の「意見書」中に、国連勧告の引照や子どもの権利条約についての言及は一切ありません。
これは、国際社会の子どもや家族にかかわる人権に対する考え方に完全に逆行しており、ただでさえ不十分な「一時保護状」の制度を完全に骨抜きにしようとする許し難い提案です。
こども家庭庁に移管された「一時保護時の司法審査に関する実務者作業チーム」は、この児相弁が要求する「一時保護を行わなければ当該児童の福祉を害するおそれがある場合」という文言こそまだ入れていないものの、しれっとこのバスケット条項の根元となる「前各号に掲げるもののほか、一時保護を行わなければ児童の生命又は心身に重大な危害が生じるおそれがある場合」という条文そのものについては第7として導入する方向で審議を進めています:
https://cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/6cdc3da2-ca5d-4fd3-8b4f-a4ae1b33cc2b/171a9fc1/20230401_councils_Judicial-Review-Working-Team-on-Temporary-Protection_06.pdf

ガラパゴスなこども家庭庁・児童相談所と国際社会の支援を受けた児相被害者との闘い

2023年7月31日、大阪にあるシンプラル法律事務所の川村真文弁護士が代理人となって起こした児童相談所の「一時保護」に関わる集団訴訟(令和3年(ワ)第11934号)の一審判決が出ました。原告側は、その法廷闘争で、児相被害者が勝ち取ってきた国連勧告等の、「一時保護」に関わって国際的に定着している規範を積極的に活用しました。これをふまえ大阪地方裁判所は、日本国憲法13条が保障する権利の中に、実親の養育権ならびに子どもが実親に養育される権利が含まれるとする画期的な判示をしています。児童相談所の強権によって家族を破壊され親の養育権を否定されてきた日本の家族は、国際社会の支援を受けつつ、その正当な法的保護をうける状況を着実にかちとり始めたのです。
こうしたとき、日弁連が推進して設けた児相弁が、これを否定する「バスケット条項」を要求してきた事実は、児童相談所に弁護士を置く制度が単にあぶれ弁護士の就職口確保だけではなく、勿論子どもたちを真に守る為でもなく、子どもの権利条約や自由権規約などの国際人権法に違反した、社会的養護利権確保のための児相拉致強化に弁護士を取り込む制度であることをますます暴露しました。
児童福祉法33条を巡る動きは、いまや、「福祉」「子供のため」に藉口し社会的養護利権と結びついて国際人権法を蹂躙して子供狩りを続けようとするガラパゴスな児相権力と、国際社会と結びついて国際的に承認された実親による養育最優先という人権規範を日本にも適用させようとする児相被害者の対抗との正面からの闘いへと展開しつつあります。
「児童の権利に関する条約の精神にのっとり」をこども基本法がその第1条で謳い、「こどもまんなか」を標榜するならば、こども家庭庁は、国際社会が発する児童相談所の人権侵害への警鐘に深く耳を傾け、第7の「一時保護」要件における児相弁の「バスケット条項」要求を断固拒否するのは勿論、この条項の根元となる項目7そのものを直ちに撤回すべきです。