当会から代替報告書を提出

当会では、国連子どもの権利委員会に代替報告書を複数回提出し、児童相談所による人権侵害について国連委員の理解を得る努力を重ねました!

司法審査なき「一時保護」を国際社会に隠蔽した政府報告書

国連子どもの権利委員会では、審査にあたりまず、政府から報告書の提出を求めます。これは、2010年の前回審査以来、政府が勧告をどう実行しようとしたか、それにより子どもの権利を守る状況がどのように進んだか、国連に説明するためのものです。
政府は、2017年6月に、「児童の権利に関する条約第4・5回日本政府報告」(政府報告書)を、国連子どもの権利委員会に提出しました。
10の章に分かれたこの報告書の中で、児相関係の記述は「5.児童に対する暴力」と「6.家庭環境及び代替的な監護」の2つの章に集まっています。
5章では、「虐待の被害児童に対する適切な保護等を行っている」こと、児童虐待防止法第2条の定義、毎年11月に行なわれる「児童虐待防止推進月間」、「児童虐待を受けたと思われる児童を見つけた時等に,ためらわずに児童相談所に通告・相談できる」「児童相談所全国共通ダイヤル」(189)設置に言及し、児相が児童虐待防止の中心機関であることをアピールしました。しかし、保護や通告だけで、いったい虐待予防をどうしているのか、そちらを政府はほとんど語りませんでした。また、この児童虐待防止法の「虐待」の定義が、保護者に限るもので、学校での虐待(学校体罰)を含まないことにも、政府はふれませんでした。さらに、第6章の、「父母からの分離(9条)」を扱う段落では、「父母からの分離」を国内法で合法化している児童福祉法第33条による「一時保護」規定について、政府は一切語りませんでした。
家庭環境を奪われた児童(20条)関連では、「『本体施設入所児童の割合』,『グループホーム入所児童の割合』,『里親・ファミリーホームへの委託児童の割合』をそれぞれ概ね3分の1ずつになるよう, 15年間かけて進める、という脱施設化への全くやる気のなさを示しました。ファミリーホームは児童養護施設が設置することが多いことも考えますと、施設利権をあくまで維持する意向を政府は示したといえます。
国際的人権規範に立てば、このような政府の方針に大きな問題があることは、容易に理解できます。

当会が、第1回代替報告書を国連に提出!

そこで当会は、このような政府報告書に対し、201711月に、英文で全文2万語を超える、児相の人権侵害を厳しく告発した報告書をぶつけました。
当会が国連子どもの権利委員会に提出した第1回代替報告書は、児相問題の諸側面を、全国の被害者からいただいた実例を交えながら、10の章に分けて詳細に論じたものです。
厚労省と児相の人権意識が国際人権規範から大きくずれていること(第
4章)、児相が司法審査なく児童を家族から次々拉致している問題(児福法33条)(第5章)、児童の人身拘束の長期化(第6章)、2010年当時委員だったクラップマンが問題提起した児相の司法機関化(第7章)、では、代替的養護システムが利権により動かされていること(第8章)、児相による親の面会交流権の否定(第9章)、児童養護施設と児相内収容所(一時保護所)内における行政的児童虐待(第10章)など、児相の人権侵害とその背景にある利権の問題を厳しく告発しました。そして、2019年3月に国連子どもの権利委員会から出た総括所見には、これら当会の告発のほとんどが何らかのかたちで採用され、勧告として日本政府に突き付けられたのです!
子供の権利委員会は、代替報告書締切の数ヶ月後にPre Session Working Group(予備セッション)を開いて、報告書を提出した市民社会団体から意見をくみ上げます。これは招待制で、その国の子どもの権利に関し包括的な内容の代替報告書を出した団体が招かれることが多いのですが、当会は、児相問題に特化した報告書を出したにも拘わらず、この予備セッションに招かれました。子どもの権利委員会が、児相問題について強い関心を抱き、厳しい目を向けていることを示す状況でした。

子どもの権利委員会から日本政府への求釈明書

子どもの権利委員会予備セッションが終わると、委員会はそれをふまえて、日本政府に求釈明書(List of Issues)を出します。2018年2月22日に出た求釈明書では、児相問題にも、次のような厳しい釈明要求が出されました:
子どもたちが家庭から引き離され、あるいは遺棄されることを阻止するため、そして子どもたちの施設からの解放を促進し、里親ないし養親による代替的養護をすすめるために、どのような方策が具体的に進められているのか。そして、児童相談所が運営している一時保護所の評価システムに関する最新情報を知らせよ(第5項)。
さらに、第12項では、子どもたちの予防拘禁を根絶することを求める求釈明が出されました。「予防拘禁」とは、戦前の治安維持法下の日本に存在した、実際に罪を犯していなくても市民を人身拘束できるというとんでもない制度ですが、20歳未満の少年少女については、この制度が少年法第3条の「虞犯少年」として現代の日本に残っていることをご存知ですか? 厚労省は、児相に配置された弁護士に、この予防拘禁をさせようとしており、これも、当会が国連に告発した問題でした。そして、日本ではほとんど問題にされてこなかったこの「虞犯少年」制度が、国連子どもの権利委員会でしっかりとりあげられたのです。

求釈明書に対する回答に苦慮した日本政府

日本政府の回答締切は、当初は2018年4月だったのですが、他の業務と重なるなど身勝手な理由を付けて1015日に延ばされました。日本政府には、国連人権関係委員会への文書提出は、できる限り先送りしようとする悪しき傾向があるようです。他にも、2017年までに提出を求められていた、「シャラップ」事件で有名になった国連拷問等禁止委員会への政府報告書提出は、東京オリンピックがあるから、などという理由にならないこじつけで、6年遅れの2023年まで延期されています。
子どもの権利委員会の求釈明書への回答については、日本政府はこの自分で延ばした締切りさえ守れず、ようやく1128日、国連子どもの権利委員会の公式サイトから英語版が公表されました。これだけ遅れたことから、日本政府が回答に苦慮したことがみて取れます。
回答対策でしょうか、締切直前にあたる2018年7月6日に、厚労省子ども家庭局は突然「一時保護ガイドライン」なるものを出しました。.その内容は、従来から厚労省が発出してきた「一時保護の強行性」を繰り返したものにすぎなかったのですが、親権者等が反対の意思を表明している場合には、できる限り、同意を得られるよう努める、と書いてあるのです。そして、たしかに最近になって児相は、児童を拉致したあと親を呼び出し恫喝して、「一時保護」同意書に署名を求める動きになっています。親が同意した「一時保護」なのだから、司法審査は不要だと厚労省は主張したいに違いありません。
政府は回答で、国内の児相問題を国際社会に隠そうとはっきりした動きを見せました。それが、第45項です。「法律上根拠がない限り第三者が児童と父母とを分離することはできないこととなっており,児童がその父母の意思に反してその父母から分離されないことが確保されている」と述べる一方、その「法律上根拠」である児福法第33条には一切触れないようにしたのです。とにかく、政府の児福法33条隠しは、徹底していました。さらに、第50項において、一時保護については,上述のガイドラインにおいて保護者の同意を得る努力をしていると述べて、根拠が怪しい統計数字まで挙げました。統計数字捏造が厚労省の得意技だということは、皆さんよくご存知ですね!
こうして、保護者の同意のもとに児相が「一時保護」をなしているのだから、児相による児童拉致という人権問題は存しないかのような外向きイメージづくりに政府は腐心したのです。
しかも外務省は、国連に送った英語版のもととなった日本語版が手許に以前からあるはずなのに拘らずその一般公開を遅らせ、国連が代替報告書締切として設定した1220日にようやく外務省の公式HPにアップしました。

第2回代替報告書、そして国連勧告

このような児相問題に関し数多くの虚偽・隠蔽・粉飾などを政府が行なっていることを発見した当会は、大車輪で新たな児相被害事例を含めて、全体で英文18千語を上回る2度目の代替報告書を作成しました。与えられた期間は大変短かったのですが、紙媒体版は、締切の1220日、無事にジュネーブの委員会に到着しました。
全国の被害事例から、兵庫県・埼玉県・岡山県・熊本県内4つの児相を典型例として抽出。その児相職員によるまさに中世並みの子どもと家族に対する人権蹂躙の実態を厳しく国際社会に告発しました。
 以上の日本政府の一連の行動は、子どもの権利条約に大々的に違反した児相・社会的養護行政を、国際社会に隠れてガラパゴスのように繰り広げている厚労省がいかに国連からの批判を怖れているか、如実に解る出来事だったと思います。
 そして、2019年3月。国連子どもの権利委員会は、全国の児相被害者の期待を裏切らない、日本の子どもと家族の権利を護る、素晴らしい勧告を出してくれました
この勧告は、被害事例のご提供くださるなど、当会を最後までご支援くださった全国の児相被害者の皆様が勝ち取ったものです。ご支援に厚く御礼申し上げます!