欧州では、虐待施設に閉鎖命令

 この3月、国連子どもの権利委員会から発出された第4,5回総括所見において、その第29項(c)で、「児童相談所において児童を一時保護する慣行を廃止すること」という緊急勧告が日本政府に対し発出されました。
解りやすく言えば、児相に併設された一時保護所(以下、児相収容所といいます)に拉致してきた児童を収容するという、これまで厚労省が児相に行わせてきたやり方はお止めなさい、ですから、児相収容所はすべて閉鎖となりますね、という重大勧告です。

なぜ、そのような勧告が出たのでしょうか?

それは、これまでの児相収容所が、児相職員による暴行、暴言、理不尽な強要、猥褻、精神医学の悪用など、ありとあらゆる行政的虐待の巣窟のようになっており、その事実がついに国連委員の耳にまで轟いてしまったからです。
児相収容所内虐待の問題は、既に2013年に発出された国連拷問等禁止委員会の日本政府に対する勧告第9項(d)で、短いながらも勧告されていました。国連子どもの権利委員はこの勧告をもちろん知っていて、第4,5回本審査の席で言及されました。しかし、厚労省は、この拷問等禁止委員会勧告を無視し、何らの是正措置もとろうとしなかったのです。
その後2015年5月になり、児相収容所内虐待の実態が、NTVのNews Everyで報道されました。当会は、これに英語の字幕と解説を付け、YouTubeにアップロードして、国連子どもの権利委員に日本の児相収容所における人権侵害の実態を知ってもらうようつとめました。この英語字幕・解説付き動画は、こちらからご覧いただけます

欧州では、施設内で児童への虐待を行なった児童養護施設等には、政府が懲罰的な閉鎖命令を下すことが、人権規範として一般に行われています。たとえば、旧東独ブランデンブルク州でハーゼンブルク社が経営していた児童養護施設「バーベンベルクの家」で凄惨な児童虐待事件が起こると、この施設は閉鎖に追い込まれ、ベルリンの新聞に事実が大きく報道されました。当会で、この事件を報道したドイツ語の新聞記事「ヴァルトラントの恐怖」をこちらに和訳しましたので、ぜひお読みください

このドイツの事件は、日本では全く知られていません。日本ではどうでしょうか。同様に凄惨な施設内虐待事件が1990年代末に千葉県の「恩寵園」で起こりましたが、厚労省は同園に閉鎖命令を出さなかったのです。恩寵園は、名称を平仮名に変えただけで、今でも存続しています。そして厚労省は、施設内虐待が横行する児相収容所をさらに増設・新設することさえ企図しています。子どもたちの人権の犠牲の上に、利権の維持拡大を図っているのです。

このような厚労省に、児相収容所全面閉鎖を求める緊急勧告がついに下されました。しかも、2019年7月18日付の『朝日新聞』は、こちらの一面トップに、News Every.が暴露したような人権侵害が、依然として児相収容所で続いている事実を報道したのです。そうであれば、児相収容所の全面閉鎖が子どもの権利の見地からみて遅すぎるくらい当然なことは、世界中の良識ある人だれもが理解し納得することです。

ところが、「子どもの権利条約総合研究所」なる団体は、日本の児相・児童養護施設内虐待被害家族が勝ち取ったというべきこの国連勧告に対し、「児童相談所の役割を一面的に評価し、唐突に児童相談所における一時保護の『廃止』を勧告するのは委員会に対する信頼を低下させかねない」(『子どもの権利研究』30号、87頁)などと、逆に国連委員への恫喝をしています。いったい、誰の味方なのでしょう? このような「総合研究所」に、子どもたちの味方となって、子どもの権利条約など国際人権規範の日本における唱道役を期待することは、もはや無理と悟るべきでしょう。