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国連からの緊急勧告にも子どもの権利条約にも背を向けた、人権侵害の「一時保護状」

「中世並み」人権状況という国際社会の認識が定着した日本

本年6月15日に国会を通過した、児童福祉法を改正する令和4年法律66号で、児童相談所の「一時保護」には、極めて不十分ながら、親権者が不同意の場合に限って「一時保護状」の発行という司法審査が導入されることとなりました。ただし、今すぐ導入されるわけではなく、3年以内の政令に定める日とされ、まだだいぶ先のことです。具体的にいつになるかは、まだ決まっていません。
子供を含む市民は誰でも、権力によって恣意的に人身拘束されず移動と居住の自由を享受する権利を有しています。これは、日本国憲法も、また国際人権法も保障する基本的な人権です。それゆえ、人権において「先進国」を称したいならば、この権利を奪うことは、証拠に基づく司法の厳格な判断によらなければならなりません。
ところが、日本の人権状況は、いまやそのように先進的ではなくなっているのです。国連人権関係委員会のあいだには、「中世並み」との認識が定着してきています。そのきっかけは、2013年の国連拷問等禁止委員会で、会場から日本の人権は中世並みとの声が上がったのに対し、日本政府の人権人道大使が「シャラップ!(黙れ!)」と2回も怒鳴りつけるという珍事が起こったことでした。
2019年の国連子どもの権利委員会に、弊会等が児童相談所(児相)問題を提起した時、まさに児相問題が日本の中世的人権状況の一つの顕われとして委員に捉えられました。日本政府や、政府と癒着した諸団体は、国際社会が日本の人権状況を見る批判の厳しい眼を甘くみすぎて、未だに日本を人権先進国と思ってくれるだろうと誤認していたのです。

児相問題を鎖国にとどめておこうとする政府の企みは失敗

今回の児童福祉法改正による「一時保護状」導入は、この不名誉を挽回するに足るものでしょうか?
日本政府はこれまで、児童相談所行政は国内問題だから、海外に児相による人権侵害の情報を漏らさないようにすれば国際社会から批判を浴びることはないだろう、とタカをくくっていたようです。その証拠に、日本政府が国連子どもの権利委員会に出した政府報告書は、児童福祉法第33条の「一時保護」に全く言及しないようにしてありました。また、子供の権利委員会の審議の席において、出席した厚労省官僚は、委員を誤魔化そうと、平然と虚偽答弁を行いました。どうせ国連の委員なんて遠い日本のことなんて知らないだろう、となかば見下していたのでしょう、
しかし、グローバル化の現代、まるで江戸時代さながらのこんな鎖国的発想が通用する筈もありません。2019年の国連子どもの権利委員会審査では、実際に児童相談所の人権侵害によって被害を受けた人々が加わる子どもの権利団体(弊会ならびにもう一つの団体)が、国連子どもの権利委員会に、その人権侵害の実態について代替報告書を提出し、日本の市民社会団体として初めて児相問題の存在を国際社会に本格的に暴露したのです。
この児相被害者団体の「スケールジャンピング戦略」は、大きな成功を収めました。この戦略により、国連子どもの権利委員会は、日本の児童相談所による人権侵害につき、第28項でその事実認定を行ない、第29項では人権侵害を是正するための緊急勧告が、多数の項目にわたってなされることとなりました。こうして児相被害者は、児相問題を、国内の個々の家族の問題から、グローバルな国際社会に共有される問題へとスケールを乗り越えることに成功したのです。

狼狽した既成の「子どもの権利」団体

政府はむろんこの国連勧告で見て狼狽したでしょう。そして、それと同じかそれ以上に狼狽したのは、厚労省とも癒着しながら、子供の権利委員会を自分たちの主張を裏書きしてくれる別動隊のように都合よく利用してきた既成の子供の権利団体やその人々だったかもしれません。
例えば、児童相談所について厚労省の下請けのように行動し、児相に弁護士のポストを設けてその就職口を開拓してきた日本弁護士連合会は、この国連勧告に関し2019年2月に発出された会長声明の中で、政府に子どもの権利委員会勧告の実行を迫りながら、実行を迫る項目に第28、29項をあえて含めませんでした。児相をプロモートしてきた既成団体「子どもの権利条約総合研究所」は、畏れ多くも国連子どもの権利委員に向かって「児童相談所の役割を一面的に評価し、唐突に児童相談所における一時保護の『廃止』を勧告するのは委員会に対する信頼を低下させかねない」などと恫喝しました(荒巻重人・平野裕二「国連・子どもの権利委員会による日本の第4回・第5 回報告書審査と総括所見」『子どもの権利研究』30号、2019年、87ページ)。
しかし、「一時保護」については、児相被害者の批判の声が国内で盛り上がってきており、メディアの関心も高まっていて、厚労省もこれを無視することはできません。ついに重い腰を上げて「一時保護」への司法審査導入に取り組まざるを得ないところに追い込まれたのです。このことは、2021年11月15日に開催された「児童相談所における一時保護の手続等の在り方に関する検討会」に向けてhttps://www.mhlw.go.jp/content/11920000/000851557.pdfのなかに、子どもの権利条約9条1項と、国連子どもの権利委員会勧告第29項(a)が参考資料として明記されているところに示されています。
児相被害者が、国際社会という空間のスケールを経由し、翻って国内のスケールで支配する国家権力=厚労省をついに動かしたのです。

国連子どもの権利委員会勧告を全く満たさない「一時保護状」の規定

とはいえこのことは、国際人権法に適合した児童相談所の「一時保護」制度が日本に導入され、中世的人権状況から日本が脱し得たことを決して意味しません。
そこで、2019年の国連子どもの権利委員会の緊急勧告が日本に何を求めているかを再確認し、それを踏まえて、この度の児童福祉法改正でどのような制度が導入されたのか吟味してみましょう。
国連子どもの権利委員会勧告29(a)の全文はこれです(①~⑤の番号は、以下の説明に対応しています):

「児童を家族から分離するべきか否かの決定に関して義務的司法審査を導入すること,児童の分離に関する明確な基準を定めること及び親からの子の分離が最後の手段としてのみ,それが児童の保護のために④必要かつ子どもの最善の利益に合致する場合に,子及びその親の意見を聴取した後に行なわれるよう確保すること。」

では、この度改正された児童福祉法は、これらの緊急勧告に示された国際社会からの要求を、すべて満たしたのでしょうか。一つ一つ、検討しましょう:
(国連)「分離すべきか否か」の決定 これは、まだ分離されていない状態、すなわち事前に、分離するかどうかの司法審査を行わなければならない、ということです。この点は、子どもの権利条約第9条1項に「司法の審査に従うことを条件として」と明記されているところから極めて自明です。司法の審査が無ければ、親子分離をしてはならないのです。ところが改正児童福祉法では、審査は事後、すなわち「一時保護」の既成事実ができてしまったあと、「一時保護を開始した日から起算して七日以内」に「裁判官に一時保護状を請求する」ものとしています。「一時保護」してから最大6日間は、引き続き司法審査なしで子供が児童相談所に拘禁されたままです。しかも、児相が証拠類を捏造することはすでに広く知られているところ、この7日間は、この児相の捏造活動に格好の時間を与えてくれます。
(国連) 司法審査は「義務的」 ➡上記子どもの権利条約第9条1項の規定ならびに国連の勧告からすれば「一時保護」の全件について司法審査が行なわれなければならないはずです。ところが改正児童福祉法では、「当該一時保護を行うことについて当該児童の親権を行う者又は未成年後見人の同意がある場合」には、「一時保護状の請求」が免除される規定となっています。しかも施設措置の場合、児相は、明示的に拒否の意思表示をしない親権者の子供を勝手に「同意」と見做して子供を施設に放り込んでしまう事例が多く報告されています。「一時保護状」についても、親が明示的に反対せず曖昧な態度でいる場合、司法審査が行われない虞が大です。これは明確に、子どもの権利条約違反です。
(国連)「児童の分離に関する明確な基準」 ➡改正児童福祉法は、この基準について全く定めていません。いかなる基準で親子分離をするのか全く不明確なまま、児童相談所の「一時保護の必要があると認められる資料」(刑事事件のように厳密な証拠ではない)のみによって、裁判所は一時保護状請求の可否を判断せよ、と求めるのです。「必要があると認める」のは全面的に児童相談所です。「明確な基準」が法に定められていないのに、どうやって裁判所は一時保護の可否を判断するというのでしょうか? 犯罪容疑者の逮捕状ならば、容疑事実とそれを犯罪とする法的要件、そしてその要件を満たす証拠や供述が明確になっていて、裁判所はそれに基づいて逮捕状発行の可否を判断します。これとくらべると「一時保護状」は全く滅茶苦茶であり、これではまさに中世の魔女狩りのようです。
(国連)「一時保護」が「最後の手段」 ➡この国連が求める規定が、改正児童福祉法の中には一切存在しません。最初かつ唯一の手段としてどしどし子供を拉致し、利権にまみれた児童養護施設に放り込みたいという児相側の意図が、見え透いています。
(国連)子供の意見表明ならびに「最善の利益」確保 ➡これについては、改正児童福祉法の33条の3の3に、「児童の最善の利益を考慮するとともに、児童の意見又は意向を勘案して措置を行うために、あらかじめ、年齢、発達の状況その他の当該児童の事情に応じ意見聴取その他の措置…をとらなければならない」とする規定が新たに加えられました。しかし、親の意見の聴取については規定されておらず、親の意見は「一時保護状」の審査過程において、全く考慮されません。
このように、児童福祉法33条の改正で導入された「一時保護状」なるものは、子どもと家族に保障されている国際的な人権水準を満たすものでは全くありません。むしろ、国連子どもの権利委員会から2019年に発出された緊急勧告を躱して、児童相談所と児童養護施設の利権を引き続き確保するための子供狩りを継続できるようにする誤魔化しのための法改悪というべきです。

むすび

この児童福祉法改正の審議過程に、児相被害者が参加することはありませんでした。意見書を提出した児相被害者もありましたが、無視されました。子供を家族から拉致して引き離す権力を持つ人々ならびにその関係者のみで法案が決定されたのです。海外では、児相に相当する行政機関の運営に関し、その機関のユーザ即ち我が子を「保護」された経験を持つ親にも意見表明の機会が認められている例もあります。そのような児相被害者の参加を拒否する厚労省は、困っている家族や子供たちの自発的な求めに応えて救いの手を差し伸べる真の「福祉」から遠ざかり、「社会的養護」の名の下で国家へと権力的な子供の収奪を図り、それをできるだけ効率化しようとしていることを証明しています。
「一時保護状」の導入によっても、この児童福祉法の性格は全く変わらず、2019年に国連子どもの権利委員会総括所見28項(c)が「児童相談所がより多くの児童を受け入れることに対する強力な金銭的インセンティブを有する疑惑」を呈した児童相談所の性格はそのままで、日本の子供と家族の人権は護られていません。
「一時保護状」の問題点は、すでにメディアでも厳しく指摘されています。また国会では、維新の会の池下卓代議士が、厚労省を追及しました:

Screenshot of www.ktv.jp

いま必要なのは、「一時保護状」導入ではなく、もともと戦争孤児の救済が立法事実であった児童福祉法33条の全面的な廃止です。

児相被害者の皆さん! いまや、児童相談所は、国際社会の問題になりました。このような「一時保護状」の導入に欺瞞されることなく、日本の児童相談所や社会的養護が子どもと家族に加える中世並みの人権侵害に自信をもって抗議し、今後も国際社会や国内の人々に向けて、その国際人権法違反を積極的に告発し、国際的に認められない野放図な子供狩りをする児童相談所を撲滅しようではありませんか!