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今年も出た「虐待数最多」の統計劇場――それが示すのは厚労省の児童虐待政策の失敗、求めるのは強い痛みを伴う児相の根本的行政改革

11月18日、日経新聞(電子版)は、「全国の児童相談所が2019年度に児童虐待として対応した全体の件数が19万3780件(速報値、前年度比21.2%増)に上ったことが18日、厚生労働省のまとめで分かった。1990年度の統計開始以来29年連続で最多を更新した。前年度からの増加数も3万3942件で過去最多だった」と報じました。

児童虐待19万3000件 全体・増加数とも最多、厚労省

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO66368900Y0A111C2000000/

この数字を根拠にして、来年度に向けて、厚労省や各自治体の担当部署が、児相・児虐関係の予算要求をすすめてゆくことはいうまでもありません。厚労省の児童虐待にかかわる記者会見では、この数字と、凶悪虐待事案とをセットにして官僚が記者にブリーフィングし、各社は垂れ流された通りを活字にして「児童虐待の深刻化」を煽ることで、世論が形成され、「児童虐待」にかかわる省益が拡大されてきたのです。この意味で、この数字は、特定の政治的意図を持って「ドラマ化」された数字だということができます。

アメリカの社会学者イアン・ハッキングは、「児童虐待」を、社会的に構築されたものだと指摘しています(『何が社会的に構成されるのか』岩波書店、第5章)。身体障碍・知的障碍には、人体の生物学的な根拠がしっかりと存在し、さじ加減で増やしたり減らしたりすることは困難です。これに対し「児童虐待」は、社会的に構築されるもので、「児童虐待」の定義は、たとえば、少子化にも拘らず児童養護施設の定員を満杯にし続けたいなど、構築者が抱く社会的意図によって変化します。その結果、「児童虐待」の数はゴムのように次々と伸びてゆくのです。

日本では、福祉社会学者の上野加代子氏が、ハッキングと同じ社会構築主義の立場から、児虐法制定直後から、「児童虐待」概念について批判的に検討してきました。29年間も連続で、しかも放物線上に右肩上がりになる「児相の虐待対応件数」の数字に対しよく聞く批判は、これは虐待の実数ではなく「相談件数」だというものです。しかし、根はもっと深いところにあるのです。2003年、厚労省のこの統計数字は、「公式統計の被構築性」として、はやくも社会学の俎上にのせられました:

このように「はね上がるような推移を示す統計は、人びとの日常行動の変化を表すものとしては、かなり特異なものであり、社会統計として信憑性に疑問が向けられても不思議ではない」(59ページ)。「『虐待』そのものの定義が変化してきた」。リスクアセスメント手法などを新たに採り入れて「測定の規準である定義を変えるということは、それまでとは異なる対象を測定するということである。また、定義が抽象的・包括的になったり、定義として参照すべき事項が増えるといった変更は、測定する対象をどのカテゴリーに含めるかということについての自由裁量の余地を広げる。だが、統計に用いる虐待の定義を変化[拡張して虐待判定のレベルを下げる]させてきたにもかかわらず、[厚労省は]その結果を同一の統計表やグラフにプロットし続け」(61,63ページ)ている。さらに、「2000年に児童虐待防止法が成立したことにより、通告がより広く奨励され…通告者の秘密が守られる」(64ページ)という、密告の奨励が行なわれている。これをもとに厚労省は、虐待「対策の担い手」としての厚労省=児相を応援する「エール」(74ページ)を発するように世論を誘導してゆく(上野加代子、野村知二『<児童虐待>の構築: 捕獲される家族』世界書院、2003年)。

中国には、市民が共産党官僚を揶揄して「官出数字、数字出官」(官僚が統計数字を作り出し、その統計が官僚の数を増やす)という諺があります。これは、官僚が小さな政府ではなく血税による自己利益極大化を目指す「東洋型ネオリベラリズム」的に行動していることを示す諺です。上野加代子氏が児虐法成立3年後に早くも指摘した「虐待数急増」キャンペーンで厚労省が肥え太ってきているのは、まさに日本の厚労官僚は中国の共産党官僚と同じ行動をとっていることを、典型的に示しています。

2000年に児童虐待防止法が制定されたとき、国会では、「児童虐待は殺人との境界領域」と叫ばれ、これの根絶が目指されて、児童虐待防止法が可決されました。埼玉県所沢児相管轄の羽月ちゃん、東京都品川児相管轄の結愛ちゃんなど、世を震撼させた虐待死こそ、凶悪虐待事案として、根絶の対象となるべき立法事実でした。では、こういう真の虐待事案は増えているのでしょうか?

拉致強化オレンジリボンキャンペーンを主宰している団体のウエブサイトに、虐待死した子どもの人数のグラフが公開されています。グラフを見ると明らかのように、「第7次」(平成21年(2009)年度)から、ほぼ50人前後を維持しています。11~12次(平成25,26=2013,14年度)では若干減りましたが、また元に戻ってしまいました。

このグラフから、次の2つのことがわかります: 第一に、すでに立法後20年を経過した児童虐待防止法も、多額の予算をつぎ込んだ児童相談所の体制強化も、真に根絶されるべき凶悪虐待事案の対応にはほとんど効果を発揮していない、ということです。第二に、真に凶悪な事案は、今回報道された「19万3780人」という数字がイメージさせるようには増えていない、ということです。厚労省が「虐待」の定義その政策意図にあわせて次々拡張することによってカウントされるようになった軽微事案、さらには冤罪事案によって、数字が押し上げられ、そしてそれがさらに児虐権益を拡張させてきた、ということになるでしょう。

とはいえ、このたびの「19万3780件」という厚労省発表の数字がもし真実だとしたら、それは、「出官」どころか、厚労省にとって大変都合の悪い事実を示しています。そもそも虐待を防止することになっているのは、厚労省自身です。そのために、年間1千億円を超える予算を費消し、各地に住民の反対を押し切ってまで収容所つきの児童相談所を増設し、非正規雇用の児童「福祉」司をハローワークからかき集めてまでこき使ってきました。それでもなお、厚労省が唱える「児童虐待対応数」は年々増加しているのです。厚労省の児童虐待政策は、巨大な失敗だったことを厚労省自身が統計劇場で認めたということです。

すなわち、厚労省が児相を家族警察へと変質させ、189によるゲシュタポばりの密告ばかり奨励し、それを児童の拉致につなげて児童養護施設の定員を満たし、さらにその増加圧力を強める方向に児相行政を誘導してきたために、虐待の数字がますます増えて、益々私たちの血税を費消し、利権を拡大し人権を侵害するようになってきたのです。タックスペイヤーとしても、もはやこれは容認できません。真に必要なのは、2019年の国連子どもの権利委員会勧告に誠実に従って、虐待を事前に予防し、家族の絆を維持する政策でした。そしてそれにより、児童虐待予算を縮小し、小さな政府を目指して、児相の家族介入を最小限とすることでした。厚労省の政策選択の方向が、根本的に誤っていたのです。

もはや毎年の恒例行事化した厚労省のキャンペーンは、いまや、ブーメランのように厚労省に返ってきています。それは、児相行政に対する厳しい国際社会からの批判と相まって、厚労省が設計し実行してきた児相の制度の重大な欠陥を示すようになってきました。この欠陥を正すためには、児相の根本的なリストラを含む、厚労省にとって強い痛みを伴う根底的な行政改革しかありません。それなくして、国際社会の信頼を日本の児童行政が回復する方法はありません。

この度発表された「児童虐待19万3000件」なる官出の数字は、このように、厚労省=児相の権力と闘う大義が大いにあることを、さらに私たちに示してくれています。日本中のご家族のみなさん! 力を合わせ、ますます厚労省=児相への抵抗を強めましょう!!