1  初歩的な質問で恐縮ですが、経済地理学会って、どういう学会ですか?
1 経済地理学会は、1954年、日本の地理学界で主流をなす学会「日本地理学会」が、社会科学の基礎と理論の認識に欠けることを批判し、当時の民主主義科学者協会の部会などを基盤としつつ、社会科学としての地理学をめざして設立された学会です。伝統的地理学の立場に立つ日本地理学会を「ナショナルスクール」とするなら、経済地理学会はそれに対し、革新の立場を鮮明にした「批判的学会」という位置付けにあったといえるでしょう。その頃「経済地理学」という語は、「オータナティブな地理学」という含意で用いられることがありました。経済地理学会が、この語を冠した明確な批判地理学への志向を持った学会として世界で最も古い組織の一つであったという過去の事実は、海外でも認識されはじめています。この経済地理学会を基盤に、保守的な日本地理学会の改革をも志向する、批判地理学の研究活動が行われました。こうした性格は、経済地理学会が、学術会議に地理学関係の研連がありながらそこには属さず、あえて第3部経済政策研連に属していることにも示されていました。経済地理学会には、伝統的地理学と一線を画し経済学の一分野として経済地理学をとらえる、という批判的決意があったのです。

2 どういう活動をしているのですか? 
2 経済地理学会の事務局は、小金井市の、東京学芸大学教育学部地理学研究室におかれています。会員は、778名います。この数は、日本地理学会(会員数3211名、事務局は東京都文京区)の約4分の1、そして人文地理学会(会員数1587名、事務局は京都市)の約半分にあたり、数だけからいえば日本の地理学関係学会の三番手といってよいでしょう。支部が、関東・中部・関西・西南・北東にあります。年1回の大会が春に、そして地域大会が年1回秋に開催されます。1年に4回、査読制度のある機関誌『経済地理学年報』を発刊しています。(各学会員数は,1999年3月初頭現在)

3 この学会には今、なにが起こっているのでしょうか。
3 設立以来1970年代初頭まで、わが国で批判地理学の立場から研究をすすめてきた経済地理学会でしたが、おなじ1970年代ごろから、海外で急速な展開がはじまったradical geography(今日ではcritical geography, alternative geographyと呼ばれることも多くなりました)の研究潮流に乗りそこないました。その後、グローバルには、マルクス主義など批判的社会科学を基礎に空間編成の理論を探求する社会・経済地理学の新しいアプローチが急速な発展をみせたのですが、他方ローカルに、わが国の経済地理学会に基盤をおく研究は、「日本」という空間と伝統的な地理学の制度にみずからを閉ざし、会員の間での社会科学の理論的基盤は弱体化してゆき、理論の乏しい地域記述(地理学ではこれを、「例外主義」と呼びます)が蔓延して行きました。
そしてさらに、一部の会員は、国や地方の開発計画に協力する一方、グローバルな批判地理学を遅まきながらも日本に摂取しようとする真摯な研究努力については、これを「欧米地理学の権威に頼」るものだとすら、この学会の代表幹事の任にある人が学界展望でいわば開き直る(『人文地理』51巻3号、1999年、53ページ)状況にまで、変質が進んできたのです。
去る5月23日に中京大学(名古屋)で開催された経済地理学会総会で、その会則が改められたのは、これらの出来事に象徴される変質を、制度として固定化するものでした。

4 わかりにくいので、もうすこし詳しく説明していただけませんか。まず、経済地理学会が変質したとは、どういうことですか。
4 このことを理解するには、学界内の状況と、学界外の状況の両方を見なくてはなりません。まず、学界内の状況についてお答えしましょう。
1970年代の半ば、わが国では、矢田俊文氏(九州大学)を中心に、かつて批判的立場に立っていた地理学者を中心とする多くの若い研究者をあつめ、「地域構造論」というものを研究するグループ「地域構造研究会」が結成されました。このグループは、矢田氏が発表したマルクス経済地理学の体系に関する論文「経済地理学について」をふまえつつ、日本経済のなかに相対的に自律性を持つ経済圏ないし機能地域のようなものを摘出しようと試みました。ちなみに、この矢田論文が発表された1973年は、奇しくも、すでに3でお話しした、radical geographyの基調をグローバルにかたちづくったDavid Harvey(ジョンズ・ホプキンズ大)の『Social Justice and the City』が出版されたのと同じ年です。それまで英語圏に、みるべき批判地理学の研究成果はなかったのですが、この年から状況が逆転し始めます。1973年は、この分水嶺をなす重要な年となりました。

5 「経済圏の摘出」とは、なにを批判する地理学だったのでしょうか。よくわかりません。
5 おわかりにならないのも無理からぬことです。こうしたアプローチが、そもそも批判的地理学の立場になるわけではないのですから。矢田氏の批判はむしろ、自治体などの一国と比べ狭い空間スケールを研究対象としていた、当時のわが国の批判地理学に対し向けられたものでした。
1970年代初頭までに、経済地理学会などを制度的基盤に、今日の英語圏の批判地理学にも比肩しうる創造的な論点もうみだしていたわが国の学界だったのですが、これを矢田氏は「経済地誌学派」などと一括して批判し、一国という空間スケールを対象とする「地域構造論」の優位性を強調しました。つまり、ここで批判されたのは、日本地理学会の伝統的地理学でも資本主義の生産様式でもなくて、それまでわが国にあった批判地理学そのものだったのです。そして、この「批判」によって、狭い空間スケールを表象としつつも、その時まで少数とはいえ創造力に富んだわが国の批判地理学者によって営々と築かれてきた理論化・概念化の伝統は、ほとんどすべて否定される結果となりました。
「経済圏の摘出」という研究自体は、中心地論など伝統的な地理学の研究でしばしばなされてきた研究テーマですし、また、これと関連した、シフトシェア分析という新古典派地域経済学の計量的手法も、合衆国で開発されています。その基礎にとりたててこみいった批判的社会科学の理論があるわけでもありません。しかし、「経済圏の摘出」といったことが、かつてマルクス経済地理学の体系化を説き、研究会を組織した人によって主張されたという経緯から、これが批判地理学の新しいアプローチであるかのような「虚偽意識」が経済地理学会に関係する人々の中にうけつがれていったのです。従来対象とされていた階級やエスニシティなど社会関係が、社会関係を無視・軽視した機能(結節)地域の空間関係にすりかえられてゆきました。たしかに、それまでの批判地理学には、社会関係を重視するあまり空間を軽視し、極端な場合地理学という学問そのものまでの否定に至る、という欠陥もあったのですが、今度は機能(結節)地域という認識を強調するあまり、逆に社会の階級性・階層性という認識が軽視されてしまいました。欧米の批判地理学者が強調する、空間と社会との弁証法的インターフェースの探求という研究アジェンダには、ついに到達できなかったのです。
かつての地政学などが端的に示すように、伝統的地理学や新古典派的アプローチ、あるいは社会関係を無視した「空間物神論」のたぐいには、研究の内容として、あるいはイデオロギーとして、それなりに既存の国家装置を助ける面があります。欧米の批判地理学の伸長に対しては鎖国的ともいえる姿勢で開き直る一方で、「地域構造論」グループの中心的な人が政府の開発計画にとりこまれ、マルクス経済地理学や批判的革新の立場を捨てて、保守党代議士や大企業経営者らとともに国土審議会委員の席についているという事実は、経済地理学会におけるこうした変質を象徴してあまりある出来事です。
そしてついに、このたび行われた選挙で、矢田俊文氏は学会会長に選出され、そのまわりを矢田氏に近い会員が固める配置となって、学会は政府の開発政策に協力する新保守主義へと、もはや逆戻りし得ない決定的な変質への一歩を踏み出してしまいました。

6 「地域構造論」のグループと経済地理学会とは、どう関係しているのですか?
6 「地域構造論」のグループが、当時の若い批判的志向を持った地理学者を多数集めたため、経済地理学会の運営は、おのずと「地域構造論」の流れにある人々が強い発言力を持つようになりました。そして、「地域構造論」が保守化するにつれ、経済地理学会そのものも、設立当初からの伝統である批判地理学の立場が忘れ去られ、しだいに伝統的地理学化・保守化していき、近年の欧米の批判地理学の大きな学問のうねりには、むしろ否定的雰囲気が蔓延するようになりました。その結果、経済地理学会における「経済地理学」という語は、以前と異なり、より伝統的地理学での意味合いに接近したものとなりました。
こうして、海外の批判地理学の研究動向をふまえつつ真剣に研究に取り組んだり、あるいはかつての「地政学」とのかかわりなど地理思想に造詣が深いわが国の地理学者のなかには、経済地理学会そのものに初めから入会しないか、あるいはいったん会員となってもその後退会する傾向があらわれはじめています。残念なことですが、現在の経済地理学会の志向からすれば、こうした流れはむしろ自然だといわざるを得ないでしょう。

7 そうだとしたら、経済地理学会の変質はもう20年近く前から始まっていたことになります。それがなぜ、いま急に「危ない」ことになったのですか?
7 この質問にお答えするには、A4でふれた、学界外の経済・社会状況についてお話ししなくてはなりません。
近年、世界的に展開している規制緩和・新保守主義(neo-liberalism)という新しい経済・社会状況のなかで、各地の都市・地域経済においてはますます「企業主義的介入」が台頭し、みずからの場所(まち)をグローバルな経済に売りこもうとする競争にもがきはじめました。また、日本独特の事情として、いぜん自民党を中心とした局地的な利権構造が根強く残っており、これが国土開発とかかわっています。今日のこのような政治・経済状況の中で、「有識者」として政策の「権威付け」をするに必要な人々がもとめられます。かくしてこれらの経済地理学者が、政府の審議会メンバーなどとしてとりこまれ、地域振興や開発計画の推進役の一端を担う状況が、ますます広がってきました。最近、経済地理学会では、この種の開発計画と直結する催しが、矢田氏らも関わって、頻々と行われるようになっています(例えば、『経済地理学年報』44巻4号、1998年 のフォーラム欄 をご覧下さい)。しかし、経済地理学会の組織は、この学会が批判地理学の担い手であった当時のままです。こうして、経済地理学会の新しい「効率的な」組織のあり方が求められるようになりました。

8 もしそうだとすれば、規制緩和・新保守主義がグローバルに展開している今日の世界において、同様の学会状況が外国にも見られなくてはなりませんね。
8 おっしゃる通りです。いま世界で、新保守主義(neo-liberalism)を背景に持った「学会組織の見直し」が、同時進行しつつあります。イギリスでは、批判的地理学がそれなりに影響を持っていたInstitute of British Geographers (IBG)が、Royal Geographical Society と合同しました。これに対し、イギリスの批判地理学者たちから、保守的色彩が強まったと不満の声があがり、これに対抗してインターネット上に「Critical Geography Forum」ができました。同じように批判地理学が活発だったアメリカ地理学会(AAG)では、開発計画に有効な新しい計量地理学であるGIS(地理情報システム)研究に重点が置かれるようになり、2つあった機関誌のうち、批判地理学に親しみがあったProfessional Geographer』が廃刊されるという動きになり、アメリカ地理学会の会員から激しい抗議が上がっています。本年1月に来日し、ジェントリフィケーション研究などで著名な合衆国の地理学者Neil Smith (ラトガース大)は、日本の経済地理学会における会則改定の動きが、新保守主義と軌を一にするこうしたグローバルな地理学会保守化の一環である、とその本質を的確に指摘しています。

9 こうした変質が、会則を改めることによって制度として固定されたとは、どういうことでしょうか。具体的にお話しいただけませんか。
9 もともと学会は、一面で学問の発展を促進する目的を持ちながら、他面では、学問にとっての制度として、さまざまの学会活動を通じて、学問の方向性を規定したり制約したりする機能を果たします。どのような方向性にするのか、それを事実上決めるのが、学会の意思決定を実質的に担う代議機関です。新しい会則では、このうち、最も実際的に重要な代議機関の構成員が、一般の会員の意思が大変反映しにくい間接的な方法で決まるように改悪されてしまったのです。
改悪後の会則は、役員選出の具体的な方法を「具体的な選出方法は、……別に定める役員選出規定による」と定めて、会則の外に置き、今後は、会則改定として一般会員の総会における審議を経なくても、役員の選出方法の変更を、3分の2の賛成が必要な会則より容易な、過半数の賛成によってできるようにしてあります。本来、役員と役員会の種類・役割・選出方法は、学会の根幹に関わる問題ですから、これが規約の中ではっきりと示されることは当然です。それをあえて会則外に出すことに、まずかなりの不自然さがあります。
次に、内容を具体的にお話ししましょう。まず一般会員から40名の「評議員」を選出します。そして、ここからさらに構成員10名の「常任幹事会」が選ばれます。「評議員」は定数が多く、「評議員会」はなかなか開けません。代表幹事自身、この評議会は年1回の総会議案を承認するために開かれるにすぎない、と総会で認めています。そして、この総会議案の原案はどこが作るのでしょうか? もちろん「常任幹事会」でしょう。つまり、これから実際に学会を動かして行くのは、「常任幹事会」になるのです。改悪された会則は、この「常任幹事会」を、「会務を遂行する」重要組織と定めています。
変更内容に関わる最大の問題は、この、経済地理学会を動かす最重要の代議機関である「常任幹事」の選出方法にあります。会務を遂行する基幹となる組織であるにもかかわらず、一般会員は間接的にしかその選出にかかわれません。しかも、その選出方法は、はなはだあいまいです。役員選出規定制定のための提案者がおこなった補足説明は、選出方法を、評議員による「話し合いを含む互選」と表現していました。4月10日に開催された幹事会でも、提案者は、評議員による「話し合いを含む」方法で「互選」するのだ、という意図をはっきり表明しました。透明なガラス張りの選挙ではない不明朗なやり方で、経済地理学会意思決定を左右する人物が決まってゆくのです。
こうした制度のもとでは、一般会員の意向を軽視して、新保守主義を志向するグループが学会運営の主導権をとることも容易です。そうなれば、経済地理学会が、効率的に開発計画などのマシーンとして使われてゆくことになります。これに大きな門を開いたのが今回の会則改悪で、これによって、この20年の間に学会に起こってきた変質は、とうとう制度として固定化されてしまったといえます。

10 そうはいっても、「常任幹事会」ができれば、学会運営は実務の面でより効率的になり、動きやすくworkableな経済地理学会となるのではありませんか。
10 少し、立ち止まって考えてみてください。「効率性」とは誰のためなのでしょうか? 何をworkableにするのでしょうか? 
「効率」とか「workable」とかいう概念は、一見無色透明の中立的なもののように思われがちですが、実は少しもそうではありません。さまざまの社会階層・集団・階級から成り立っている現代の資本主義社会において、「誰にとっての効率性か」「誰のため何をworkableにするのか」を問いかけることは、まともな批判精神を持つ社会科学者なら常識です。去る5月23日の総会における会則改定審議で、可決にむけ発言し議事を強硬に進行させたのは、矢田氏はじめ5〜6人の、かつて「地域構造研究会」で核となった人々や、その後これに強い関わりを持つようになった人々が中心でした。このことは、今回の会則改悪が「誰のため」だったのかを、端的に示しています。
今日の新保守主義(neo-liberalism、新自由主義とも呼ばれます) の潮流において、各国で「効率性」の名のもとに福祉が切り捨てられ、また、地域間競争の中で地域経済を振興するworkableな方法と称してさまざまの開発計画が遂行されています。こうした住民を無視ないし軽視した政策を正統化するため、一見中立的に響く「効率」とか「workable」とかいう、あまり皆が批判しにくいコトバが、都合よく使われています。それによって政策は、中立どころか、開発本位の政策に苦しむ社会の弱者がつぎつぎと切り捨てられる方向に動いています。むしろ、こうしたコトバで今回の経済地理学会の会則改定が正統化されようとしていること自体に、今回の会則改定と、新保守主義との密接な結びつきを読み取ることができます。

11 新しい会則では、学会運営をになう人々の世代交代のため、多重回の当選禁止規定が加えられたそうです。世代交代も、必要なことなのではありませんか。
11 それは、おっしゃる通りです。しかし、学会の次世代をになう中心的な人々は一体誰か、それを誰が決めるのでしょうか。学会は一般会員から構成されている以上、これを決めるのは、一般会員の自由な意思以外にないはずです。
ところが、1998年12月12日の経済地理学会幹事会には、前の期の役員が次期役員を定数いっぱい指名し、一般会員にはそれへの事実上の信任投票しかさせないという、戦前のファシズムや旧社会主義国の「選挙」を彷彿させる提案すら、「規約変更」を積極的に推進する幹事から出されました。あまりに露骨なこの提案は後にとりさげられましたが、今回の会則改悪に、非民主的な選挙制度への改変を通じて、ある特定の研究潮流が経済地理学会の中でみずから「世代交代」し、学会での発言力を自ら永続化(self-perpetuate)して行こうとする意図があることが、くっきりとにじみ出ています。
つまり、この改悪された会則は、前時代的な仲間うちの結合のような感覚で、少数の会員が仲間うちで「話し合い」、経済地理学会の会務を遂行する人物を次々決めてゆくことに固執しているのです。この「仲間うち」以外は、会員全体の信望があり、自由な選挙により支持を集めうる会員でも、経済地理学会の会務遂行において無能だ、ということのようです――これは、会員を全体としてあまりに愚弄した見方ではないでしょうか。会則改悪によって、今後、こうした不明朗な方式が学会で横行し、きわめて不透明かつ恣意的なやり方で、前世代の者が「指名」した次世代のごく少数の会員の意向で学会が動かされ、学会の風通しが悪くなり、新鮮な思考を持つ広い会員の自由な意思が会の運営に反映しにくくなることが、強く危惧されます。
そもそも、いったいどこの民主主義国で、前の期の国会が次の期の代議士を指名したりするでしょうか? 
しかも、今回行われた役員選挙はこの多重回選出規定の例外とされるという骨抜きの規定があり、評議員には、これまで20年も役員を続けてきた会員が大量にまたもや選出されてしまいました。世代交代どころの話ではありません。

12 学会を統括する立場にある会長は、この会則改悪にどういう姿勢で臨んだのでしょうか。
12 会長(竹内啓一氏(駒沢大))は、地理思想史に造詣が深く、批判地理学にも関心がおありの方ですが、もともと経済地理学会で旧ソ連やかつての「大政翼賛会」のような方式で役員をえらびだすことには肯定的な考えをお持ちでした。今回も残念なことに、すべてを現行の経済地理学会の意思決定機関である幹事会に任すという立場をとられ、このことによって事実上、この会則改悪を黙認されたといってよいでしょう。
1999年10月2日に開催された幹事会では、5月23日の総会に「混乱があった」ことを竹内会長は認めつつも、それに対する反省の声はまったく聞かれませんでした。

13 地理学の国際世論は、この経済地理学会の問題についてなにか反応していますか?
13 はい。去る1月、韓国の慶州で開催された東アジアオルタナティブ地理学地域会議(EARCAG)は、参加したNeil Smithからの動議により、経済地理学会が創立時同様に批判地理学の場でありつづけ、また意思決定の過程を民主的なものとするための闘争を支持する決議を採択しました。また、EARCAGの親団体というべき、1997年8月にカナダのバンクーバーで第1回大会を開いた批判地理学の国際組織、International Critical Geography Group (ICGG)は、その運営委員会(本年3月26日に米国ホノルル・および4月19日にメキシコシティで開催されました)の正式な議題として、日本の経済地理学会の問題を討議の結果、次の声明が、ICGGとして公式に発表されました。

International Critical Geography Group 「Statement of Purpose」の精神にのっとり、私たちは、日本の経済地理学会の仲間たちの、その創設時の基盤であった批判的伝統を蘇生させ、その意思決定過程を民主化するための闘争を熱烈に支援することを表明します。

ICGG運営委員会 1999年4月19日、メキシコシティにて

かつて世界で最も先駆的な批判的学会だった経済地理学会が、グローバルな学会の新保守主義化にのみこまれつつあるとの認識も、そしてこれに対抗する支援の輪も、いまこうして国際的に広がりつつあります。皮肉にも、このことによって経済地理学会は、わが国の地理学関係諸学会の中でもっともよく海外に知られる学会になりつつあるといえるかもしれません。

14 なるほど。もう少しこの問題について深く知るための文献があったら、紹介してください.
14 経済地理学会創立期の事情については、風巻義孝「経済地理学会に至る歩みと出会い」『経済地理学年報』44巻1号、1998年、65−73頁 がよくまとまっています。1970年代以降の経済地理学界内の情況をより詳しくお知りになるには、いささか長いので恐縮ですが、『空間・社会・地理思想』第3号に発表した拙稿があります。また、GEOメイリングリスト(GEO422, GEO427, GEO438)でも、私が発言しています。GEOメイリングリストでの本問題に関連する発言には、この問題を審議してきた経済地理学会の幹事会で配布された一次資料もいくつか紹介されています。また、ご意見・ご質問などありましたら、直接電子メイルを、いつでもお寄せ下さい。


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