今回の巡検で実感した、ナイジェリアでの「ダッシュ」(ナイジェリアの植民地英語で賄賂の意味)とガイド氏へのチップの二点について、このコラムでまとめる。
私たちは、今回の巡検中にゼミ生と先生を含め、空港で二回「ダッシュ」を要求された。一度目は8月28日にラゴスからアブジャへ飛行機で移動した時である。
空港でボディーチェックを受け、その後の手荷物検査の際に、先生は沢山の手荷物を持っていたため、係官に荷物を開けて見せるように言われ、
「Do you have something for me?(何か私に渡すものない?=ダッシュちょうだい!)」という上等文句でダッシュを要求された。
先生のカバンに入っていたお土産の名古屋名物の外郎(ういろう)が「怪しまれた」らしい。先生は持っていた小額の米ドル紙幣の中から、5ドルを払い、
面倒なチェックを受けることなく事を済ませた。この場所は何レーンか手荷物検査を受ける場所があり、その先に椅子に座った係官が全体の様子を見張っていた。
しかしこの時は不在であり、先生がダッシュを払い終えると、ちょうど戻ってきた。
二度目は、最終日にナイジェリアから日本に帰国する時である。ゼミ生の一人が、同じようにボディーチェック後の手荷物検査の際に、
荷物を開けて見せることを要求された。一度目の場合とは異なり、手荷物の量は多くなかったが、カバンの中身を見せるよう要求された。
他のゼミ生二人と比べ、その荷物の量は変わらなかった点から考えても、係官は何人かに一人あてて難癖をつけている感じなのだろう。
そのゼミ生は、カバンの上部にナイラ紙幣が入った財布、カバンの底部分に日本円が10万円ほど入った別の財布を持っていた。
もしカバンの荷物を全てひっくり返され、底に入っている財布がばれたら、ダッシュの額も上がるのではと考え、荷物を全て調べられる前に係員に200ナイラを渡した。
しかし「足りない」と言われ、500ナイラ紙幣を探したが持っていなかったため、結局1000ナイラ払い事を解決した。この場所も上記の状況と同じであり、
係官が見張っている様子であり、この時も係官が椅子に座ってはいたが、結局気付いていたのかいないのか、不正を取り締まってはくれなかった。
これは憶測だが、椅子に座っている係官も仲間になってもらったダッシュを後で折半しているのかもしれない。ダッシュ要求を初めて経験したゼミ生は、
巡検最終日でナイジェリアを出国する際であったため後味の悪さを感じていた。
国によっては、サービスを受けた後チップを払うことが習慣となっているところもある。では、「ダッシュ」とチップはどう違うのだろうか。
ダッシュは、公的権力を持つ下級官吏がその職務権限を行使するかしないかにかかわって要求してくるものである。
要求する側は、職務権限行使に手心を加える代わり、金銭的収入が得られる。要求される側(旅行者)にとっては、職務権限を柔軟にしてもらえれば、
時間の短縮やトラブル回避等の便益が生ずる。このように、両者ともが便益を得られるwin-winの「互恵的関係」のうえに成り立つのがダッシュである。
他方、チップは、提供された便益が優れていた場合に、その便益の提供者に対して顧客が支払うものであり、感謝の意思表示を、
サービスの代価として支払う価格に上乗せして金銭的に行うものである。サービスが既に提供されてしまっている以上、支払いを要求される側(顧客)
にとって便益はないように思えるが、サービスを提供する側にすれば、チップをもらうと、今後さらに顧客サービスを向上させようとするかもしれない。
こういうインセンティブとして機能することを考えると、チップはマクロな顧客の便益に還元されていることになる。
もちろん、チップの場合とことなり、ダッシュ要求は、公的な権力者がその信託された公的権力を私腹を肥やすために使っているところに問題がある。
しかし、今回の巡検での大きなテーマであった「二重経済」がここにもかかわってくる。つまり金を多く持っている外国人旅行者から、
権力はあるが給料が低く貧しい生活を送っている途上国の公務員が金を受け取り、お金が上の層から下の層に流れるのは、一種の所得再配分とみなすこともできる。
そう考えると、「賄賂は絶対に悪だから払わない」とかたくなに拒絶し、もめるより、このお金が彼らの生活費のたしになり、生活向上につながるのだと思って渡すのも、
あながち間違いではないのかもしれない。
私たちの巡検の経験でも、小額のお金で簡単に問題が解決できた例が他にもある。例えば、9月2日ナイジェリアのカラバルからオロン港経由でカメルーンへ向かう際、
カラバルで私たちが船に乗り込み出発を待っていると、船着場で2,3人の男たちがこちらに向かって、何やら文句を言ってきた。厄介なことに巻き込まれ、
出発が大幅に遅れるのではないかと危惧したが、ガイド氏が2,000ナイラ払うと、問題はたちどころにに解決した。
(上写真:オロンでの一コマ。握手をしている人が、我々のために賄賂を素早く支払ってくれ、スムーズに出発できた。)
このあたりの呼吸は、
ナイジェリア人相互でも十分心得ているのであろう。
もしこの時に、生粋の日本人なら「不正はない」と言い張って、決してダッシュを払おうとしないかもしれない。
しかしその行動がより複雑な問題を引き起こしてしまうことは間違いない。例えば、この場合では船を一度降り、事務所に連れて行かれ、
状況を詳しく説明させられるかもしれない。罰金を請求されるかもしれないし、仮にここで不正がないことが確認されても、長時間拘束され、
その間にスケジュールは大きく乱れてしまう。午後になり、その日のうちにカメルーンに着けなくなっていたかもしれない。
これは、旅行者にとって、賢い選択とは言いがたい。つまり「少しのお金を払い解決していく」柔軟な対応が必要とされているのである。
では払うとなると、いったいいくら程度が好まれるのか。一概にいくらとは言えない。地域やその国のガバナンスの程度、賄賂を払わなかった時の影響、
などを考慮しなければならないからだ。現地の通貨で払うより、ドルやユーロといった、ハードカレンシー(国際的に流通している通貨)がより好まれる。
そのため小額のドルやユーロ紙幣を用意しておくべきである。今回の巡検ではナイジェリアではドル紙幣で、カメルーンではユーロ紙幣で払うのがよい。
ダッシュに「おつり」はありえないので(チップならおつりはある)、もし手持ちに小額紙幣がない場合には、
上記の二度目のゼミ生のように払うべき額を超えて払わなくてはならなくなり、損をする。
では、チップはどうか。私たちの巡検では、チップの支払い額を、おおむね次のような基準に照らして決めている:
@サービスを受ける期間の長さ。A当初の予定通り、スケジュールを遂行したか。B我々との間に問題を起こさなかったか。事前に依頼したにも関わらず実行されなかったサービスは無かったか。
Cガイド氏自らが、主体的・積極的に親切な行動をしてくれたか。
D問題が起こった時に、スムーズに解決してくれたか。
E長距離移動の際の運転の安全性と定時性。
F語学能力(英・仏語等)はどの程度か。それを活かし、正確に通訳してくれたか。
G安全管理にどれだけ気を使ってくれたか。
…これらを考慮し、ゼミ生と先生で話し合い、チップの額を決定していった。チップに使う紙幣は、ダッシュと同様に、ハードカレンシーを使い、
ナイジェリアではドル、カメルーンではユーロと使い分けた。
次に、私たちを案内してくれていたガイド氏並びに運転手に支払ったチップの詳細を下記にまとめておくので、だいたいのイメージをつかんでいただきたい。
@ラゴスを案内してくれたガイド氏
人数: 2人+運転手
期間: 6日間(8月26日〜28日、9月12日〜14日)
貢献度: 前半は献身的な行動、後半は慣れからかルーズな面を多く見せる。
特に最終日の晩飯の件ではひと悶着有り。9月13日のラゴス駅での
写真撮影に際し警察に尋問された件に関しての対応は良かった。
またトラブルに巻き込まれたゼミ生へも柔軟に対応してくれた。
チップ: 一人は20米ドル。もう一人はなし(理由は、最終日の晩飯で、
私たちとひと悶着を起こしたため)。運転手には20ドル。
Aアブジャ−カラバル間、バンキ−カノ間のガイド氏
人数: 2人(1人は見習い)、警官2人
期間: 10日間(8月28日〜9月2日、9月9日〜12日)
貢献度: 最初から礼儀正しく、それは後半になっても変わらず。時間にも忠実で
あった。お世話になった日数も一番長い。またこの間は長距離の移動
が多かったが、運転手の運転技能は高く、安全で信頼が置けるものだ
った。
チップ: 50ドル(ガイド氏) 2000ナイラ(見習い)
50ドル(運転手) 小額のナイラ(警官)
Bイデノー−ヤウンデ間のガイド氏
人数: 1人+運転手
期間: 5日間(9月2日〜6日)
貢献度: 時間に正確でルーズな点はみられない。英仏両語に堪能。車内での
車窓解説や、カメルーンの構造調整政策に対するコメントなど、
学識豊富でとても勉強になった。
チップ: 20ユーロ(ガイド氏) 20ユーロ(運転手)
Cンガウンデレ−バンキ間のガイド氏
人数: 1人
期間: 3日間(9月7日〜9日)
貢献度: 予定通りこなしてくれたが、特に車窓解説などはしてくれなかった。
イスラム教徒であり、時に私たちをほったらかしにし、お祈りに行くことが
あった。
チップ: 国境通過の際に余ったフラン