申すまでもなく、マンションは、一生に一度の貴重な買い物です。しかし、マンションは、単なる「物」を買うのではありません。この資産を所有することになるマンションの住民は、同時に、これを取り巻く地域社会(コミュニティ)の一員となる、という点において、マンションは「社会」を、そして「地域」を買うのです。したがって、マンションは、それが「物」としてばかりでなく、「社会」として・「地域」として良い買い物かどうか、地域社会と調和的となるよう、責任をもって計画されたものであるかどうかが、重要なチェック項目となると思います。

しかも、その住民がマンション購入後、地域社会の一員となったとき、このマンションを売る日商岩井と長谷工は、もはやマンションの建物の所有者でも、その下にある土地の所有者でもなく、マンションとは何の関係もなくなっています。以前から住んでいる地域住民との良好な関係、地域社会との調和を考えて行かなくてはならない責務は、結局このマンションを買った新住民自身の肩にのしかかるのです。

とはいえ、「終の住処」・「時を経ても強い愛着」を持てるマンション、という大胆な語り口で客を引き付けようとするのであれば、なおさらのこと、地域環境と調和した、十分な地区計画がたてられ、これにふさわしい地域社会との調和や住民との納得づくでの話し合いを、物件の引き渡し前に行っておくのが、企業責任というものでしょう。建築主である日商岩井株式会社、そして設計・施工者である長谷工コーポレーションに、こうした責任の意識がなくては、安心して長い期間住める住環境を買い手に保障するなど不可能でしょう。

では、現実はどうでしょうか。検証してみましょう……

このマンションは、密集した住宅地のただなかに、これを睥睨するような15階建てとして計画され、一昨年12月に住民に説明がなされました(長谷工の広告に出た鳥瞰図をご覧ください)。この計画は、周辺の地域環境を全く考慮したものでなかったため、住民に、大きな不安と混乱をもたらしました。

昨年2月22日付で長谷工は、「低廉・良質な住宅供給を行ない、住宅街との調和の取れた建設計画を行なう」と言う趣旨の回答を住民に寄せました。この考え自体はなるほど立派です。ですが,もし日商岩井や長谷工が責任をもってそのように考えているのだとしたなら,旧西ドイツにならって,1980年代に日本にも導入された地区総合計画の立場を尊重し,「総合設計制度」などを積極的に活用して,本マンションの建設を機会に率先して地域住環境全体の整備を図るべきでしょう。それでこそ,本当に「終の住処」と自信をもっていえる地域環境に取り囲まれた,優良マンションになるはずです。

ところが,住民のもとに提出された実際の計画図面を見ると、住民から太陽を奪い、風害・電波障害、入居住民の車などによる騷音・排気ガス公害の環境破壊が起こることは確実で、絶対容認できない、として次のような要求を3月24日付で、長谷工に対して行いました。


「1)15階建は絶対許すことが出来ません。

上記でもふれたように、低層住宅街の中に建つ事は周辺環境の調和を破壊します。173戸を半分以下に変更し、多くても7階建迄である。2階建・3階建の機械式駐車場・2階屋上の駐車場は絶対反対します。排気ガス公害・夜問の騒音公害・駐車車両より隣接住居が丸見えになる・又駐車場よりの盗難・火災等の危険・環境破壊が予想される。

2)地下駐車場の設置。

屋外駐車場は平置迄とし、足りない台数は地下に格納する。ポンプ室・受水槽・電気室等も地下に設置する。構造物の壁面は隣接境界線より最低10M離して計画する。構造物と境界線の間を緑地帯とし、周辺住民も使用できるようにオープンな公園型式とする。これにより、排気ガス公害・騷音公害・盗難等の低減を図り、周辺住宅の環境を配慮した調和ある街づくりに貢献できる。

3)マンションを南北一直線に配置する。

御社の社風は再三環境を整備し、良質な住宅を供給する事とあるが、全戸南向きとすることにより、周辺住宅の日照権を侵害し、環境の悪化を招く設計は絶対容認できない。

無論,これは最小限の要求でした。近傍の東武東上線「志木」駅前に藤和不動産が建てたマンション(既に入居済み)は、さきに述べた総合設計制度をすすんで活用し,駐車場を平置きどころか全面地下にし、その上が、誰でも利用・通行自由な公園となっていて、緑豊かな地域環境を積極的に作り出すことに貢献しています。

 なぜ、他社なら可能なこうした計画が、日商岩井と長谷工にはできないのか。 こうした要求を説明会の席で行いますと、長谷工の担当者は、「資金がない」と答えるのです。

このことについては、『週刊ダイヤモンド』昨年8月3日号の特集「ゼネコン絶体絶命」を見ると、「なるほど」とわかります。1996年に長谷工は,ゼネコン大手40社の中で,経営危険度ワースト2、業界最悪の1,928億円におよぶ当期損失をだしました。そして株価は一時額面割れ、40円台を低迷しました。その原因は、『サンデー毎日』1997年12月14日号掲載のグラフ(図)をみると、わかります。長谷工のメインバンクはいずれも収益力・不良債権処理進捗度ともに芳しくない実績なのです。特に、長谷工の主力銀行である大和銀行は、都銀の中で、破綻した拓銀に次ぐ不良債権ワースト2を占めていたのです。ところが最近、長谷工の株価が急に上がり始めました。それは、「公的資金注入」=国民の血税の配給を受けた大和銀行が、そのカネで、貸し渋り防止、資金難にあえぐ中小企業の救済どころか、長谷工に関わる不良債権の放棄、すなわち借金棒引きを始めたからです。大和銀行は、つい先ごろ海外からの全面撤退を決意、地域密着型の銀行として新しい方向性を打ち出したばかり。その初仕事が、地域密着どころか地域破壊のゼネコン=長谷工救済です。それにひきかえ、大和銀行の取引先の中小企業は、いったい今回の「公的資金注入」でどれだけ救われたというのでしょうか? 

大和銀行のように、長谷工が借りた「金を返せないということで、じゃア[国民の血税でそれを]チャラにしましょう、という行為は銀行業の冒涜としかいいようがない」

と、アメリカのUCLA教授、大前研一氏は怒りをあらわにしています(『週刊ポスト』1998年12月11日号)。こんな経営姿勢では、大和銀行の将来も、あまり明るいものではないかもしれません。

日商岩井にしても,「グローサス朝霞台」用地を、東武東上線の奥にある武蔵嵐山に移転した工場「特殊精鋼」からバブル期の最中に契約して大変高く仕入れてしまった、だから今日の低迷する不動産市況の中で売り出すには、どんなコストでも切り下げて、許容される容積いっぱいに安く普請したマンションを早く売ってしまわなくては会社がもたないのだ、というという住民の情報がありました。日商岩井と長谷工は,こうした経営上の失敗とバブルのツケを,地域住民に環境悪化という形でなすりつけようとしたと考えても、十分納得が行きます。

地域住民はさらに、管轄の朝霞市消防署には、15階建てに届くハシゴ消防自動車すらないのに、これでこのマンションを買った住民の安全は守れるのか、と質問しましたが、長谷工側からは、実際マンションを買って居住する消費者の立場に立った明快な回答のないまま、15階建てマンションはとにかくどうしても譲れない、もし認めないのなら周辺住民の反対にもかかわらず建設するぞ、と住民を恫喝して参ります。体の大きな長谷工コーポレーション開発推進部の一担当者は、交渉に際して、ところかまわず住民を怒鳴りつけるので、「恐怖感を覚える」という声さえ住民の間に聞かれるほどでした。

とはいえ、長谷工は、「環境を守る会」の要求を前に、6月になって多少の設計変更を提示しました。ところがこの変更たるや、15階建てはそのまま、建物の向きを多少変え、当時この住民運動で会長の立場にあったごく一部の住民は日照時間が約2時間も増えて便益を受けるが、それ以外の住民には、かえって日影が増える住宅が数多く生じてしまうという、奇妙な内容を含むものでした。「太陽が欲しい!!」という、大多数の地域住民の切実な願いは、かなえられなかったのです。こうして住民の間から、狡猾な長谷工は住民運動の事実上の「買収」をはかり、建設に突破口を開こうとしたのだ、との指摘が上がりました。事実、この多少の設計変更が発表された後、いままで長谷工と積極的に闘ってきた会長は、突然、マンション建設容認の姿勢に180度方向を転換し、その上会長を辞任してしまったのです。

「PATIO & GARDEN」といって売り込んでいますが,実はかなり(上方の白い部分)が駐車場。誤解を招きそうです。
なぜ,駐車場を全面地下にし,その上を地域のみんなの憩いの場である公園に計画できないのでしょうか……?

日商岩井と長谷工のこうした対応は、はたして、地域住民に対してだけのものでしょうか、それとも……。とにかくコストを安く建ててしまい、事情をよく知らない客に、言葉巧みに売ってしまえば、そのあと「終の住処」のつもりで物件を買った客に対しても、どんな火事や地震が起ころうと、どんな施工の不備があろうと、地域との不和に巻き込まれようと、「我がなきあとに洪水よ来れ」、という対応を取ろうとするのでしょうか。「すみずみまで考え抜かれた良質なマンション」と称する物件が、ロープの無いバンジージャンプ場になるとしても、平気なのでしょうか。

長谷工側が「補償」と称して示している微々たる涙金で、太陽が奪われ、騒音・風害・ゴミなどの実害が発生することにより、この先永遠に周辺住民が蒙る甚大な財産権の減価が償えるものでは到底ありません。今後も引き続き、地域環境の維持と向上にむけて、たたかわざるを得ません。

1996年12月2日の強行着工に対し抗議に向かう「環境を守る会」の住民たち

1997年1月18日になって、長谷工と日商岩井は、周辺住民との合意が成立しないまま、マンション「グローサス朝霞台」の販売活動を強行開始しました。

これに先立ち、長谷工から1月10日、私たち「環境を守る会」に対し、「裸で話し合おうじゃないか。ついてはモデルハウス周辺にあるマンション反対の看板をはずしてほしい」という趣旨の申し入れがありました。これに対し私たちは、長谷工側にあるかもしれない誠意を心を振り絞るようにして信じ、一時的に、いったん貼り出した反対のポスターをはがし、片づけました。その中には、「このマンションを購入される方は、地域住民との紛争付きマンションを買われることになります」という趣旨の文章の、購入希望の方へのお知らせもあります。ですが、こうしたわけで、今現地においでになっても、ポスターや看板はすぐには目に付きません。しかし皆さん、それは、私たちが長谷工ならびに日商岩井と和解し、マンション建設に納得したことを絶対に意味していません。ポスターや看板を一時的に取り片付けて以降の数回の交渉の中で長谷工側がこれまでに提示してきた補償条件なるものは、太陽を奪われることなどから生ずる私たち住民の財産権の減価を償いうるものでは到底ありませんでした。そして、なお長谷工側の誠意に一縷の期待をよせた私たちに、長谷工は、「もしまた看板を出すなら、これまでの補償提案は撤回するがよいな!」と容赦のない恫喝をかけています。そして周囲の家をご覧いただくと、こうした長谷工のやり方をすべての市民の皆さんに訴えかけるように、しぶとく何十枚もポスターが残っています。

マンション発売のときだけ、私たちの「反対」という自由な言論を、巧みな甘言と恫喝を弄して封じ、われわれ住民の意見を買い手の皆さんの目から覆い隠したまま、消費税率上げを前に駆け込み販売。それが済んでしまえば、あとは「我がなき後に洪水よきたれ」。おざなりな周辺地域総合計画のまま、マンションを購入された方々が、居住後、その周辺住民と紛争にまきこまれても知らん顔。これが、バブルがはじけたあと長谷工と日商岩井がとる「企業としての責任」の実像なのでしょうか。

すぐ近くの藤和不動産マンションならできる総合設計制度がなぜ,日商岩井と長谷工にはできないのか。1月26日の交渉の席で,長谷工側は,「この制度を使うには商業地域でないと……」というのです。しかし,これは,住民が何も知らないと思ってかついたウソ。総合設計は,他の用途地域にも適用されます。ただし,総合設計をするには空地を確保しなくてはなりません。ただし駐車場は、ボーナスとして容積率を増やせる公開空地としては認められていません。つまり,日商岩井と長谷工は,全面地下駐車場にするための土地を掘るコストをけちって敷地の相当広い部分を冷たい鉄とコンクリートの駐車場にしてしまったため,緑の空地不足で総合設計制度が利用困難になってしまったとも考えられます。そうならば,「グローサス朝霞台」のキャッチワード「GARDEN」それ自体が,公の立場から「ウソ」と宣告されたことになりましょう。

長谷工、住民の意思を無視して囲障建設を強行!!

境界測量もせず。住民、態度を硬化

「グローサス朝霞台」で仮に総合設計制度が採用できないとしても、マンション建設が近隣住民の利益にもなり、マンションと住民とが共生し調和して行ける方法はないものか。「環境を守る会」では、敷地の塀に沿った近隣住宅から要望があった場合、マンションをとりまく垣根にその住民が通行できる空隙を設け、マンションの建物を取り囲んで設置される予定となっている歩道を、地域住民も毎日の通勤・通学や散歩のために利用できるよう、敷地内通路の通行権を認めよ、と要求し、交渉を続けています。

この通行権が実現すれば、「人間の感情をやわらげ、休息とレクリエーションなどの人間活動を可能にするための空地を取り込む」ことを中心に、「敷地の狭小化、オープンスペースの不足などの問題」ある「市街地環境の整備改善を図るため個々の建築活動の規制・誘導を行う」という、建設省自身が積極的に推進している総合設計制度の理念・目的に「グローサス朝霞台」が少しでも近づき、望ましい市街地環境の形成に、多少なりともつながって行くことになります。

長谷工側はこの要求に対し、「マンションの敷地は私有地だから……」などとといって認めないまま、ついに1998年3月9日より、住民の反対や抗議の声を無視して、敷地内歩道周囲に囲障(垣根)建設を強行開始し、敷地内歩道を通行できないようにしました。しかも、長谷工はあせったのか、この囲障建設に当たって、マンションの土地と近隣住民所有地との境界をきちんと測量しないまま、勝手な場所を長谷工が一方的に判断して囲障を建て始めたのです。これが「東証一部上場企業」とは、とうてい信じられないやり方。このため、今後、近隣住民と、マンションの土地を区分所有する入居者との間に、紛争が持ち越されることが必定となりました。

そもそも、どの土地も、同じようにみな私有地です。それを、長谷工は踏みにじってよいが、周辺住民はいけない、ということでしょうか。こんな不合理な話はありません。マンション工事では重機が動くと振動で家は毎日地震が襲ったようにグラグラッと揺れます。加えて、作業車のエンジンの音、けたたましいアナウンス。朝から家で気持を集中して仕事をすることすらままならず、赤ちゃんも目を覚ましてしまう、深刻な工事公害でした。マンションに住民が入居した暁には、建物の日陰・風害・入居者の車のエンジンやカーステレオの騒音……。これらはみな、この囲障を乗り越えて、私たちの私有地に、そしてそこで営んできたささやかで静かな環境に、容赦なく永遠に襲いかかるのです。でも、市役所を通じ抗議をしても、長谷工は馬耳東風。塀を乗り越えて他人の私有地に土足で上がりこむように迷惑をかけても平気、ところが近隣住民が通行権を要求すると、「私有地だから……」。そして、地域住民の土地との間を測量もせず、一方的に垣根を立てて通行を妨害する。こんな論理が、通用するでしょうか。マンションを取り囲む歩道を近隣の地域住民が散歩したり通勤したからといって、誰にも何の公害も迷惑も及ぼすわけでなく、訪れるのは、かえって地域との調和なのですが……。

「終のすみか」と称するマンション計画で長谷工は、いったい地域に何をしてきたのか。3月末から入居してきたマンション住民にこのことを訴え掛けるように、「長谷工マンション撤去!」の横断幕が周辺住民の家に高く掲げられています(写真)。

マンション「グローサス朝霞台」……。このような身勝手なマンションにすむ住民は、「社会を買う」・「地域を買う」・「安全を買う」と考えた場合、本当に幸せなのでしょうか。無責任で身勝手な論理をふりまわし、まるで映画『インデペンデンス・デイ』に出てくるエイリアンのように,地域に襲いかかってそこを破壊し,しこたま儲けた後,あとそこは野となれ山となれ、地域に以前からいる住民とマンションを買った新しい入居者とが、仮にどんな紛争になっても、涼しい顔で他に渡り歩いて,またその地域を破壊して行く……。こうした行動をとる日商岩井や長谷工は、本当に「終の住処」と公言するマンションを建設する資格があるのでしょうか。

本年5月、経済企画庁は、全国の「豊かさ指標」(新国民生活指標)を発表しました。それによれば、埼玉県は、豊かさ指標6年連続最下位。惨めな烙印が定着してしまいました。県が、こんな日商岩井や長谷工のようなマンション業者に思うがままやらせているようであれば、 「豊かさ」完全に落ちこぼれ=埼玉県、「ださいたま」だ、と周囲から言われつづけても仕方ないでしょう。「グローサス朝霞台」のようなマンションがますます林立しそうな埼玉県に、この汚名を挽回できる見込みは、果たしてあるのでしょうか。賢明な皆様には、以上の、このマンションを取り巻いている環境につき十分慎重なご検討のうえ、決断していただきたいと存じます。

一般市民の方々も、住みよい環境,都市・地域づくりにおける企業の社会的責任とはなにか、長谷工や日商岩井は、いったい、こうした社会的責任を果たしうる、大企業としてのモラルと矜持をそなえた企業なのかどうか、県はこうした業者を規制し、本当に「豊かさ最劣等生」から這い上がらなくてはならない、という自己責任をどの程度真剣に認識しているのか……。以上のことを一つの素材として、よく考えていただきたいと思っております。


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