ビザなし交流とは、日本人と北方四島在住ロシア人が相互に日本本土と北方四島とのあいだを、ビザなしで渡航して交流できる制度である。パスポートも不要であるが、それに代わるものとして、戸籍抄本と写真をあらかじめロシア側に提出する。1991年、ソ連崩壊直前に来日したゴルバチョフソ連大統領の提案で始まった。
しかし、日本人ならだれもがこの「ビザなし交流」に参加できるわけではない。外務省HPで公開されている「北方四島への渡航に関する枠組み」によると、ビザなし交流に参加できる人は以下の人たちに限定されている。
1、四島交流(日本人と四島在住ロシア人の間の交流のための訪問)
…領土問題解決までの間、相互理解の増進を図り、領土問題の解決に寄与することが目的。原則として、1)北方領土に居住していた者、その子及び孫並びにそれらの者の配偶者、2)北方領土返還要求運動関係者、3)報道関係者、4)この訪問の目的に資する活動を行う専門家(98年以降)が対象。
2、自由訪問(旧島民及びその家族によるふるさとへの訪問)
…北方四島に居住していた日本国民並びにその配偶者及び子が対象。
3.北方墓参(旧島民及びその家族による墓参のための訪問)
…旧島民とその家族が対象。
ビザなし交流者のうち、1の目的で渡航する人が大半をしめている。ビザなし交流は、日本にとって、北方領土問題解決のための環境作り、足がかりという政治的意図を持ったものであって、北方四島の地域経済に貢献する意図はない。むしろ、日本人があまりカネを落として北方四島が繁栄しては、返還が遠のくという考えからか、ビザなし交流団は、訪問先でのルーブルによる消費について、数千円程度という制限を受けているという。
ところが、サハリン州政府経済政策委員会に私たちゼミ生がインタビューをしたところ、担当官は、ビザなし訪問団を。ロシアへの単なる観光客とみているようであった。現行の「ビザなし訪問」制度は、日本人のロシア観光を促進する枠組みだというわけである。
そのうえ、担当官は、上記のようにビザなし交流に参加する日本人対象者が限定されていることを認識していなかった。ヨーロッパ人がEU域内を自由移動するような感覚で、日本人であれば誰でもビザなしで北方四島に比較的自由に渡航できるものと考えているようであった。今回のインタビューで、日本とサハリン州の、「ビザなし交流」についての認識のおおきなギャップを感じた。
これでは、「ビザなし交流」にいくら日本政府が血税を投じ、「環境づくり」を図ったと思い込んでも、政府が考える北方領土返還につながってゆくはずもない、と思われる。
(栗野令人)
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