差出人: Fujio Mizuoka; 水岡 不二雄 <ce00042@srv.cc.hit-u.ac.jp>
宛先: geo@ml.air.ne.jp <geo@ml.air.ne.jp>
件名 :
[geo 427] GEO423から425について日時 : 1999年2月10日 1:30
GEOメイリングリストの皆さん、特にGEO423・425、424の方へ:
小生の
GEO422についての発言に関心を持っていただき、有難うございました.GEO
メイリングリストがアクティブになることに多少なりとも貢献できたようで、嬉しく思っています。
GEO422の発言は、経済地理学会の「会則変更」強行採決を、何より速報
することを重視して投稿したものでした。にもかかわらず、経済地理学会会長とし
てその席におられた方が、
GEO423で
>
それなりに、限られたページ数のなかで要領よく2月6日の経済地>
理学会の議論の大筋を伝えていると考え、その要約ぶりを高く評価いたします
おっしゃるように、当日の状況に関する限り、「断片的」でなくかなり的確に事実関
係を伝え得たはずだと考えています。さらに、小生の発言の趣旨を変更する
ほどのものでないとはいえ、
GEO423では、発言されたご本人によるより詳細な報告もなされています。
若干事実の補足をすれば、強行採決の折、山本代表幹事が挙手を数え間違
っているのに対し、正確を期すため投票によるべきではないかというフロアの
意見を退け、最後には議長である自分自身をも賛成票として数えようとする
という、狼狽ぶりを印象付けておりました。
小生は、こうした事実をなによりも、地理学共通のフォーラムである本メイリ
ングリストメンバーに知っていただこうと考えて投稿したのであり、意図的に
>
起こったことの背景も脈絡もわからない不特定多数の人に,>
断片的な情報を与えて,意見形成を図ろうと
するなど、とんでもないことで、またその必要もないことです。
「背景と脈絡」については、すでに
GEO417において、韓国で過日開催された学会(
EARCAG)の報告として、本メイリングリストで紹介していますので、そちらも是非お読みください。
その上で、事実をどう判断するかが、メイリングリストメンバー
各自の判断にゆだねられているのは当然のことですし、その結果、
今回の経済地理学会幹事会における強行採決、
そして近年の経済地理学会のありかたに、多くの方が関心を持っていただ
けるなら、それは大変結構なことと考えております。
ところで、
GEO423・425の方の「電信柱に張られたビラ」、「デマゴーグのアジビラ」という言葉に接し、小生は、以前監訳した
Harveyの著書の一節を想起しました。労をいとわず引用すれば、
Harveyは、次のように述べています。
「経験は
,いろいろな姿をとってあらわれる。さりげない街の通りで交流したり観察したりし
,街角で手に押しつけられたあらゆるパンフレットや地方紙を読んだり
,局地的な政治運動に取り組んだり,そしてより広い国ないし国際的な政治的共同を求めたりすることがすべて
,たがいに相容れないことも多い経験のごたごたのなかに一緒にぶらさがっている。そしてま
た
,文献がある−−浩輸でとめどもなく,多岐にわたり,時にはただ美辞麗句をもてあそび論難をこととし
(そのことのために興味がそがれるということは決してないが
),また時には砂を噛むように殺伐とした科学について権利を主張するような文献がある。分析者は
,これらすべてについてどんなものか味見をし,提起されている考え方や情報と格闘し
,時にはこれを提起した人との知的な戦闘において激しくたたかわなければならない。こうした文献は
,純粋に学術的なものばかりというわけでもない。小説
,演劇,詩,歌,絵画,落書き,写真,建築設計や図面……これらすべてが鍵をあたえ
,潜在的な意外性をはらんでいる。」(『都市の資本論』青木書店、
9ページ)
GEO423,425
の方は、『Social Justice and the City』を共訳してわが国に早くから
Harveyを紹介されました。そこから小生が学んだことの一つに、オータナティブの立場に立つ社会階層にとって、ともすれば富と権力に擦り
寄りがちな「メディア」とは、しばしば経済的・社会的に相容れない、
という点があったと思います。
Harveyがこの原書を出版した1985年でさえ、こうした階層にある者が自己の意思を表明するメディアは、おそらく、「電信柱
のアジビラ」や「街の壁の落書き」だったでしょう。しかし、それは時として
時代状況を捉え、又それを大きく変革させる契機となり得ます。
このことを、私がゼミ学生
10人あまりを連れて1996年の夏に訪れたリトアニアのビリニュスの国会議事堂の前に大切に保存されている、
ソ連の権力と闘った無名の民衆が残した多数の
アジテーションの落書きの中に認識しました。
GEO423
の方が蓄積されてきた研究のバックグラウンドからすれば、「電信中に張られたビラ」などという形容句を、あくまでこのコノテーションにおいて理
解したいという気持を、小生は捨てきれません。もしこれが、言葉の本来の意味
からくる直接のコノテーションで用いられているならば、こうした言葉遣いは、
GEO423
の方の研究者としてのありようにとって、場合によると自殺行為になりかねないからです。
しかしそうなら、こうした
GEO423・425の方ご自身の研究のバックグラウンドからする限り、経済地理学会が
1954年に創立されたときの原点・伝統と、
>
会則をはじめ、条文において重要なことは>
、その字句の意味の詮索のみでなく、それらが、現在まで、どのように慣行として>
解釈されてきたか、それらの解釈がどのような状況、いわばコンテキストにおいて>
なれてきたかということを理解することが重要である。学会の会則の文言上は>
『会長は会務を統括する』ているが、従来、幹事会独裁体制の現行規約の解釈>
において、会長が幹事会の多数意見に異を唱えたことはなかったし、今回も従来>
にしたがって、会長は幹事会の多数意見に従う
という「慣行」なるものとの間に、もっと深刻な内面の弁証法があってよかったの
に、と不思議になってきます。あるいは、この点にかかわる葛藤を
GEO423で率直に吐露していただくこともできたはずだったのに、と思います。
それがないあっけらかんとした
GEO423を読んでおりますと、はたして、前者のコノテーションで
GE423の発言者を理解して本当によかったのだろうかと、ますます困惑が深まるばかりです。
また、経済地理学会の歴史の中で、こうした規約にそぐわ
ない「慣行」が本当に成立しているのか、また、こうした「慣行」の
コンテキスチュアルな意味合いは(仮にそうしたものがあるとき成立していたとし
て)まったく今日まで本当に変わっていないのか、といった問題については、
社会科学の立場に立つ地理思想史家としての
GEO423・425の方の、一次資料による研究なしに明確なことはいえないでしょう。
今日、インターネットやメイリングリストという、草の根から情報発信できる
新しいメディアが、パソコンにアクセスできさえすれば、草の根
の民衆にも広く利用できるようになりました。これにより、情報の発信者と受け
手との差がない、草の根に端を発しグローバルに広がる
convivialな情報空間が、ある程度の制限つきとはいえ、実現しつつあります。インターネット
とは、ホームページ巡りのことなのではなく、「メーリングリストに始まり、
メーリングリストに終わる」ものです(古瀬・広瀬『インターネットが変える世界』
岩波新書、
173ページ)。とはいえ、こうしたメディアは、日本の暗記・詰め込み主義の教育とは異なり、自分の自主的な意見をきちんと理性的に表明する
訓練が小さな時から施されている、アングロサクソン系の国で開発された
ものです。これが、日本の文化に接合されると、
>
不毛な,あるいは感情的な発言の応酬
になってしまうのでしょう。誠に、残念でなりません。
グローバルな視野でみますと、日本の経済地理学会の変質とかかわる最近の諸事情
は、
>
経済地理学会執行部以外には関係のない問題
どころか、世界的な学界の新保守主義化の一環として、すでに海
外のオータナティブ地理学者の関心を惹くに至っています。
InternationalCritical Geography Group
のメイリングリストicgg-ml(注)でも、意見の交換がなされ、
ICGGの代表世話人Neil Smith(ラトガース大)は、つい先ごろ韓国での学会の帰路来日、学会の疲れをものともせず、成田到着の当日夜、
本人から希望して
GEO423・425の発言者と特に会見、事情のフェアな把握につとめていました。
日本の地理学界と海外のそれとの格差の背景には、もしかすると、
GEO424発言がはしなくも示してくれたように、こうした理性と感情という差異、そして地理学と
いう学問のプラクティスが持つ空間スケールに関する認識の違いがあるのかもしれま
せん。
もしそうだとすれば、これはかなり根元的なもので、今後21世紀に向けて日本の
地理学が展望する将来は、あまり明るくはないのではないか、と危惧されてしかた
なくなるのですが……。
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Fujio Mizuoka, Ph. D.
; 水岡不二雄Professor of Economic Geography,
Graduate School of Economics, Hitotsubashi Univ.
一橋大学大学院経済学研究科教授
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