【概要】 | |||
2011年度で19回目となる水岡ゼミ海外巡検において、初めてのオセアニアへの訪問となりました。ニュージーランドを12日間の日程で、北島のパイヒアから南島のクイーンズタウンまで縦断するように各地を視察しました。 ニュージーランドは、日本人にとって、最近、旅行先としても、英語学習などの留学先としても、親しみのある地になっています。私たちも、現地で日本の修学旅行生や観光旅行客と数多く会いました。 しかし、ニュージーランドは、大英帝国の模範生として発展した国であり、大英帝国の遺産や、第二次大戦で日本の敵国であった歴史など、知られていない面もたくさんあります。かつては、英国にならって「ゆりかごから墓場まで」の福祉政策を採用しながら、英国のサッチャリズムに触発され、いち早くネオリベラリズムに転向しました。しかし、ネオリベラルな構造改革で、公共事業の民営化、規制緩和による外資の参入などが起こり、経済が混乱し、社会的弱者がさらに困難な状況に追いやられている状況があります。また、先住民族マオリとイギリス入植者の間で結ばれたワイタンギ条約の解釈の違いなどから、民族問題が今なおニュージーランドに根深く存在しています。 日本がニュージーランドから学ぶべき点は、多くあります。2011年は、日本のTPP(環太平洋経済連携協定:Trans-Pacific Partnership)への参加の是非が議論された年となりました。さらには3月11日の東日本大震災で生じた原子力発電所事故の放射能被害から、日本では脱原発が唱えられ、再生可能エネルギーなどエネルギーの転換が議論された年ともなりました。すでにTPPに参加し、また原子力発電所を一切持たないニュージーランドは、私たちに貴重な先例を提供してくれます。 私たちは、巡検に先立ち、ニュージーランドへのイギリス入植の歴史と、規制緩和・関税撤廃を進めるネオリベラリズムなどについて文献で事前学習しました。これらをふまえ、今回の巡検に対し、以下のような課題意識を持って現地に臨みました: 1. かつてのイギリス的な国家主導型産業化政策と福祉国家の路線から、ネオリベラル政策へと転換したニュージーランドにおいて、民営化・外資導入・規制緩和・自由貿易の徹底が、経済的・社会的にどのような影響を及ぼしているか。また、一度民営化された交通インフラなどの公共事業が再国有化されている現状をふまえ、民営化はどのような問題点をもっているか、考察する。 2.大英帝国の植民地政策の遺産とマオリの歴史を調べる。ニュージーランドは、マオリの土地の上にイギリス人によって開拓された。だが最近は、マオリの粘り強い民族運動から、マオリの政治力は次第に増し、それによりマオリの経済的機会も増えている。白人とマオリとの葛藤の中に存在するニュージーランド社会の状況はどのようなものか、考察する。 3.日本と同じような火山地形をもち、原子力発電所が一切ないニュージーランドで盛んな地熱発電などについて調査し、今後の代替エネルギーのありかたを考察する。また、2011年にクライストチャーチで起こった地震の被害と復興に関して現地調査をする。 4.ニュージーランドのマクロ経済を支える国際競争力を持つ、酪農業や林業などの主要産業について考察する。また、氷河や火山地帯の自然環境を訪れ、その成因と観光資源としての利用実態を視察する。 これらの視点に立ってまとめたこの巡検報告が、読者の皆様に、今後の日本のあり方を考えるヒントとなり、またニュージーランドを見る新たな視点を提供してくれれば幸いです。 |
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