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第3回ピーストーク

アメリカはなぜ
イラクへ侵略するのか?
  • 水岡不二雄(一橋大学大学院経済学研究科)
  • 2003年3月29日  於:早稲田奉仕園


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1940年代〜1960年代:
WWII後の米国による世界覇権と冷戦体制
  • 枢軸国の敗北が見通せるようになった1943年ごろから、米国は、その世界覇権のための「中立的な」外交手段として、国連の組織を構想。英国、ソ連を仲間につけてその枠組みを練る 
    à フランス、中国も加えた5大国が拒否権をもって連合した安保理を制度的基盤に、米国中心の単極的軍事支配でPax Americana の維持をめざす。
  • その後、米ソで冷戦勃発。東西ドイツ分裂、朝鮮戦争。米国は、圧倒的な経済力を用いた援助(西欧復興のためのマーシャルプランなど)、NATOによる西欧諸国の軍事的支配とワルシャワ機構諸国との対抗、そしてCIAなどを通じた謀略=腐敗した傀儡政権樹立を通じ、スターリン的共産主義世界の封じ込めと、資本主義世界の優位を追求。


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1970年代:
20世紀第4四半期を規定する重要な転機
  • 1971: ドル危機 àブレトンウッズ協定崩壊
  • 1973: OPECの石油独占àオイルショック
  • 1974: 国連、「新国際経済秩序」決定
  • 1975:   米国がベトナム戦争で敗北
  • 1976: 毛沢東死去à中国経済の市場化
  • 1979: イランにイスラム原理主義政権成立


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1980年代:
 “「北風」よりも「太陽」”
グローバルな市場主義を通じた米の覇権
  • 米国は、企業経営・技術・資本力で頂点にいる. それを活用し、低賃金労働力を活用した単純作業を主とする工場を世界に展開することで、米国が中心となった単極構造世界を維持できる。
  • 米国に本拠を置く多国籍企業が海外直接投資 à 投資受入国地元(途上国など)で生産された財を米国が国内市場開放して購入 à 雇用拡大 à 地元民所得向上 à 地元むけ財生産増大 à 地元の経済成長、市民の生活水準向上 à 地元民の意識は保守化し「自由と民主主義」の米国を支持するようになる。



  • 市場主義の空間的な拡張という、経済的手段を用いた世界覇権実現へと、方針転換し、米国は成功を収めた。



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1990年代:
 冷戦崩壊と市場主義の普遍化:
勝利と世界覇権に酔いしれた米国
  • 東欧民主化、ソ連崩壊、旧ソ連・東欧が市場経済化。
  • 中国は、共産党一党独裁ではあるが、海外直接投資導入で市場経済化。


  • 先進資本主義諸国やラテンアメリカでは、IMFなどをテコに、「規制緩和」・「民営化」・「自己責任」・「ベンチャービジネス」等のキーワードに象徴される、「ネオリベラリズム」導入、「構造改革」。= 新古典派経済学の合理的経済人や競争的均衡の概念を導入し現実に作用させようとする。政治の民主主義(1人1票)・市民的自由の概念を、経済的民主主義(ドル紙幣での投票)・市場的自由(金を持つ者が支配する自由)で代替。


  • 1980年代まで経済力を誇った日本は、「失われた10年」で停滞。


  • 1991年の湾岸戦争での、イラクに対する多国籍軍の圧倒的勝利。


  • ⇒ 市場主義のグローバル化、アメリカの単極世界支配確立。


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2000年代:
 格差拡大、世界デフレ、EU拡大、9.11
「太陽」à「北風」に戻った世界覇権戦略

  • 市場主義の拡大à 勝者と敗者との差が明確化・格差拡大、& 世界的なデフレ=過剰生産。
  • 米国でIT停滞、New Economyの終焉、エンロンなど破綻、保護貿易発動 = 新興工業国の商品の大きな市場だった合衆国経済は停滞。これ以上途上国の産品を吸収できない。コスト削減の必要。


  • 市場主義のフロンティアはこれ以上広がらず、貧困が持続、「市場の太陽」による米国の世界覇権維持は困難となって、9.11を生んだ
  • 最貧途上国はいつまでも最貧,非市場的世界に生き続ける人々は非市場的思想(e.g.イスラム原理主義)に精神の救いを求める à 9.11事件へ
  • 先進資本主義国内では、バブリーな投機が破綻、産業政策が行き詰まる。(àインフレ政策など金融的手段を用いた新たな国内的収奪へ。)


  • 独・仏・ベネルクス中心の機関だったEUが、元東欧・旧ソ連へと拡大、統一通貨ユーロが流通開始
  • 市場経済・国際通貨体制は、もはや米国が独占的に統制できる存在ではなくなりはじめた。



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米の新保守主義と
新安全保障戦略(ブッシュ・ドクトリン)
  • 米国中心の単極世界構造を今後引き続き維持することへの激しい執着。
  • 市場主義の信仰=「グローバルな収斂」が自由と繁栄を世界にもたらす=は、一方において堅持。しかし、市場主義の「万人の万人に対する闘争」の世界観を、市場から、軍事的対抗を用いて実践しようとする。
  • 他方、市場主義のグローバル化が世界の貧困を除去し得ていない認識を示し、「グローバルな収斂」のイデオロギーが失敗したことを事実上承認 =貧困・脆弱な制度・腐敗が、弱体国家を「テロリストのネットワーク」に冒されやすくしていると指摘。
  • これが9.11を引き起こしたのだから、弱体な国家(「新帝国主義論」では、「破綻国家 failed states」)で大量破壊兵器を蓄積する国には、主権国家であっても先制(preemptive)攻撃をかけて政権を打倒、「米国への脅威を除去」することを主張。
  • =市場主義のパラドクスを、武力に訴えて解決しようとする。米国が世界最大の軍事力を持つことを誇示、これによって米国の世界支配を貫徹するという、明示的な方針。
  • 米国の外交は、元来「いかなる国とも恒久的関係を持たない」孤立主義を特徴としていたが、これが回帰、この戦略でも、米国の使命を達成する際に、既存の国際組織・パートナーシップを捨ててでも、単独行動主義を基調に、アドホックな「意思ある国の連合(coalition of the willing)」を構成して事態を打開することを追求。
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新しい帝国主義 
イラク戦争と米国の中東支配の企み
  • 1979年のイラン、イスラム原理主義革命  à 米国は、イスラム原理主義を恐れて、イラン攻撃。イラクを味方につけ、軍事技術供与。à 1991年、軍事的実力をつけたイラクは、湾岸戦争でクウェートを攻撃。英植民地主義が人為的に作った国境による「失地回復」をめざす(同じとき、冷戦体制が崩壊、米単極支配が強化される。) à イラクは敗北、国連安保理決議678、687が出された。
  • イラクとその周辺で、世界の30%の石油・天然ガスが産出される。イラクの石油埋蔵量は世界2位、1120億バーレル以上と推定される à イラクで親米政権樹立に成功すれば、OPECの枠外にイラクを置いて、PSA(生産シェア協定=多国籍石油企業の治外法権)を認めさせ、米英石油メジャーが自主的に生産調整、石油価格を操作。à 石油収入に権力基盤を置いている他の中東諸国を、石油価格という市場機構を通じ、政治的に統制することが可能に。
  • イスラエルにとっての軍事的脅威を削減し、攻撃を受けるリスクが減ったイスラエルが、一層身勝手にパレスチナで振舞えるようにする。
  • 石油資源以外に海外からの直接投資の魅力が乏しい中東諸国に、東アジアのような製造業拠点を根付かせることはもはや不可能 à これらの国が「失敗国家」になって、グローバル化した国家権力に由来しない攻撃(9.11のような)の温床にならないよう、武力で抑え付け、監視する。
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イラク軍の頑強な反撃
自分の墓穴を掘りつつある米英
  • 新安全保障戦略の考え方は、各国の支持が得られず。イラクが「大量破壊兵器」を保有する明白な証拠も出ず、イラク攻撃を許容する安保理決議獲得に失敗。
  • 米国は、英国だけと共同でイラク開戦。 新安保戦略の「coalition of the willing」を実践。
  • イラクの激しい抵抗。独仏露中などから批判、イスラム諸国の市民は反発(親米的イスラム国指導者は、米国に協力)。これまで親米だったイスラム国(トルコ、サウジアラビア)も反発。世界各地で連日大規模反戦デモ。イラク軍は、精鋭部隊や民兵が果敢に戦う。イラン寄りのシーア派と、第1次大戦でオスマントルコ帝国崩壊後できた「上置境界」に組み込まれたクルド人少数民族を、米国はアフガンの「北部同盟」のように使おうとしていたが、旧宗主国だったトルコも、この地域に権益を感じ、米国に対抗して派兵を決定。「衝撃と恐怖」作戦、功を奏さず。
  • 高精度兵器は十分機能せず、戦果をあせる米英軍 。湾岸都市を十分制圧しないで首都に進軍、4万台のトラックが600kmを輸送する補給路は脆弱化。トルコが非協力で、北部からの米英軍首都侵攻が不可能に。砂嵐・猛暑の季節到来。米英兵士の大量戦死・行方不明・捕虜増大で、10万人増派。米英軍は、 クラスター爆弾・劣化ウラン弾など残虐兵器使用を開始、à 戦闘泥沼化、ベトナム化へ
  • 短期決戦の予想裏切られ、株価とドル為替レート再下落、原油価格高止まり、消費冷え込み、米国の「双子の赤字」(財政と為替)悪化。さらに泥沼化し戦闘が長期(6週間以上)になれば、エネルギーコスト増・市場縮小・株価低迷などで à 世界経済不況一層悪化へ、
  • 罪もないイラク市民の犠牲も増加しており、米英軍の戦死者も急増している。1000人を超える米英軍戦死者が出ても戦闘が終結しなければ、ブッシュは苦渋の撤退へ?
  • あるいは、ベトナム戦争以来の大量な米英軍兵戦死者を生み、無辜のイラクの子供・女性はじめ市民を大量虐殺の末、米英軍が辛勝、イラクを米英軍政下におく à その正統性は?
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3月27日の戦況
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米英が払う高い代償  /1
イラク侵略の帰結と新しい国際秩序
  • 理性・共同・協調の色彩濃い独仏の「欧州連合」が、道義的な正統性をもち、米国と並ぶ世界のもう一つの極として台頭。ユーロが新基軸通貨として重要性を増す。もう一つの軍事大国ロシアの復活。米国は、次第に世界の覇権を失い、英国は、欧州内での発言力を失って、いずれも孤立化。
  • 世界に盛り上がった反戦運動は、米国の軍事的恫喝を用いた「新安全保障戦略」に基づく米国の覇権主義に対抗する恒常的な抵抗のグローバルな主体に成長。
  • イスラム諸国は、イスラエル寄りの米国に一層批判的となり、独仏露寄りの姿勢を鮮明に。親米的な中東諸国の政権も、次第に米国から離反。
  • 米国が世界覇権を実現する手段としてきた国際政治組織の解体と変容==米国が起案し、戦勝国の連合として発足した国連の欺瞞性は、今回の安保理の事態などを通じ世界の人々の前に既にかなり明らかにり、「平和の使者」という虚構のメッキは剥げ落ちてきているが、これが決定的となる。NATOも、米国の欧州支配の道具から、米国から離れた欧州内部での集団安全保障組織に変容、むしろ米国に対抗する手段に。
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米英が払う高い代償 /2
イラク侵略の帰結と新しい国際秩序
  • 国際的な戦争抑止制度が機能しなくなったため、米国やその同盟国の軍事的恫喝を脅威と捉える北朝鮮など一部の国は、先制攻撃を恐れ核武装を含む自主的な軍備を増強させ、同様に先制攻撃の権利を主張、時に実行に移す。
  • また、「民営化された戦争」=米国が「テロ」と呼ぶ、国家権力に由来しない攻撃がグローバルに各地で頻発する。世界はますます不安定となり、米国に襲いかかるため、また局地的な軋轢のために、戦争の危機が高まる。
  • 米国は、イラク戦争に勝利、ブッシュドクトリンが強化され、世界のあらゆる国を「米国への挑戦者」とみなし(ラムスフェルドの報告書「いまある危機」) 、軍事的恫喝という「北風」で自らに大人しく従わせる新安保戦略を強化。だが、その軍事費負担により「双子の赤字」にあえぎ、米ドルの国際的地位低下とドル安、米国債価格下落=金利上昇、米経済の信認低下、国際資本逃避、経済危機へ。
    または、イラク戦争に敗北して新保守主義が勢力を失い、リベラル派が米国政治の主流に復活。ブッシュ始め戦争責任者は訴追される? しかし、リベラル派が依拠する市場主義で、もはや米国は世界覇権を握れない。
  • 日本は、無定見に米国追随、米国が突きつけてくる請求書の法外な金額(イラク戦費の日本負担額は数兆円?)を唯々諾々と支払い、財政危機を一層悪化させ、国債乱発で日本経済をハイパーインフレーションの淵に追い込む。