コラム 共産党と社会構造


 社会主義時代には、共産党員であるのとないのとでは、生活において明らかな差があった。共産党員は様々な方面で特権を持っていた。たとえば、出張に行ったときに優先的にホテルに泊まれる。ホテル事情は日本のようには良くないので、この特権はとても有益だ。また、列車や飛行機のチケットも優先的に取れる。また、どこに行っても信頼感を持たれる。
 成様はかつて、軍隊に行っている息子に会いに、はるばるスターリングラードまで行ったことがある。そのとき、ホテルの予約をしていったにもかかわらず、現地に行ってみると、きちんと予約が取れていない。一日中宿泊場所を探しても、宿泊するホテルはどこもいっぱいで見つからない。成様は当時新高麗新聞の副社長でサハリン州共産党委員でもあったので、やむなく共産党委員会に交渉に行った。ちょうど宣伝部長がいて、5分で、泊まるホテルを紹介されたという。それは民間人の泊まれない共産党員専用ホテルだった。
 サハリン州共産党委員会には、200人の委員がいた。共産党に入るには、10年前から共産党に入っている人、二人の承認が必要となる。女遊びや浮気、酒の飲みすぎ、横領などをすると、共産党を追い出される。
 たとえば、ユーゴスラビアでは、性的な出版がソ連に比べ自由だったので、そのような出版物を入手したのがばれて共産党をおわれたり、また、豊原/ユジノサハリンスクで、検事が自分と妻が同時に2台の車を買ったことから、浪費だと責められ検事を首になった。しかし仕事上のミスによる失態には比較的甘かったという。
 共産党員になるきっかけとしては3種類が考えられる。一つは、共産主義の信奉者、一つは自分が偉くなりたいから、もう一つは上司などから共産党員になるよう指示されたから、である。実際、成様も将来、新聞社の所長になるので共産党員になれといわれて共産党員になったという。
 このような共産党員の特権は、ソ連崩壊後なくなったかといえば全くそんなことはない。現在でも脈々とその人脈が生きている。元共産党委員だった人たちは、ソ連崩壊後、起業する際にそのコネを利用して、会社をかなり優位な位置に持っていくことができる。たとえば、私たちが今回利用したインツーリストサハリンという旅行会社の社長も元共産党委員で、列車・ホテル・船の予約を優先的にとれるのだ。
 そのような中で、現在、社会主義を懐古する感情はないのだろうか。現在、年金生活者は月に3500ルーブルから4000ルーブルしかもらえず、家賃・光熱費・水道費で使い果たしてしまう。そのため政府は年金のみで生活している人には、家賃・光熱費・水道費を半額給付する制度を設けているが、それでも彼らは黒パンと水でなんとか生活しなければならない現状がある。
 このような状況の中、社会主義時代への懐古をする人は主に年金生活者である。というのも、以下のようなシステムによって、雇用が確保され、現代の年金生活者に見られるような極貧生活者はいなかったのだ。このシステムとは、需要が多くよく売れる時には、より労働者を雇って、その分一人当たりの労働者の給料を下げるというものである。たとえば、成様の奥様も実際、売り子をしていたとき、最初は700ルーブルもらっていたが、もう一人雇わなくてはならなくなったとき、その人とあわせて900ルーブル、一人あたり450ルーブルになってしまったという。
 しかし、現代では上記に書いたように年金生活者は極貧の生活を強いられている。そのために彼らが選挙時に共産党に投票する。こうした人々は、若者を共産党に引き込もうとしているが、若者は皆、共産党を嫌がっていて、うまくいっていない。ちなみに、現在のロシアの共産党員はほとんど老人である。

(枡田恵子)